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2016年06月

若鶴酒造と三郎丸蒸留所の挑戦 日本最長 55年熟成原酒が販売へ

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富山県の若鶴酒造から、日本最長熟成となる「シングルモルト三郎丸1960 55年熟成 700ml 47%」の発表が行われました。


この発表に先立つこと約1週間前の6月15日、若鶴酒造の関係者であるIさんと意見交換の機会を頂いておりました。
今回の記事では、その意見交換の内容から、ウイスキー業界に本格参入する若鶴酒造の動きと、発売されるシングルモルト三郎丸1960について紹介します。


若鶴酒造は、サンシャインウイスキーなどの地ウイスキー的なリリースを行っているメーカーで、実は現在も蒸留を続けている長い歴史を持つ蒸留所です。 
その若鶴酒造が蒸留所ならびに設備を新設・拡張し、ウイスキー業界への本格参入を狙っていることは、先日発行されたWhisky World誌にも掲載されたところ。
今回の意見交換では、今後の計画ならびに蒸留の方向性などを詳しくお聞きすると共に、こちらからも資料をお持ちして、狙うべき酒質やターゲット層など、今後の展開について熱く語り合いました。

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(五郎丸?いえいえ、三郎丸蒸留所です。若鶴酒造のある富山県の地名です。)

飯田橋にあるIさん行き着けのお店で始まった今回の会談。 
見た目は下町の一品料理屋的な感じなのですが、ここのお店、魚介系のレベルがめちゃくちゃ高い。
今が旬のいわしのなめろう、マダイの刺身に若鶴酒造のお酒である「苗加屋 特別純米」をあわせ、お互いに関する雑談に花を咲かせたところでいよいよ本題、今後の蒸留計画についてです。

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(同社の蒸留設備。現在稼動しているのは30年ほど前に設置したもの。
ウイスキーでは珍しいステンレス製のポットスチルです。)

若鶴酒造は1952年からウイスキーの生産を開始。通常は日本酒の仕込みをメインとし、それが終わる7月から10月にかけてウイスキーの製造を行ってきました。
通常毎年仕込みを行っていますが、ウイスキーの消費量が落ちた時期などは製造しないこともあったそうです。
この辺は江井ヶ島と同じですね。違うのは間にブランデーを挟まないことでしょうか。
ポットスチルはステンレス製の単式1つのみで、初留が終わった後で一度蒸留器を清掃し、同じ蒸留器で再留するというシステム。そのため、生産量は決して高くなく、年間2000リットル程度しか製造していないのだそうです。 
正直、よくもまあこれで長く続けてきたものだと、関心してしまったくらいです。 


熟成に使われてきた樽は、ここ最近はバーボンバレル中心で、過去にはワイン樽なども使われていたようです。
ピートレベルを示すフェノール値はジャパニーズでは驚きの50PPM。これはアードベッグとほぼ同じということになります。
ここでIさんが持参された平成6年蒸留の20年熟成のカスクサンプル(50%)をいただきましたが、甘く華やかでアプリコットなどを思わせるフルーティーさに、ちょっと焼けた樽材のようなクセ。
ピートは50PPMも感じないほど穏やかで、後半にかけて染みこんで来るタイプ。何より樽感が程よい感く、熟成のバランスは悪くありません。 
以前製品版のサンシャイン若鶴20年を飲んだときは、ゴムのような強いクセを感じて閉口モノだったのですが、このサンプルは普通に美味しく、びっくりしてしまいました。

日本の熟成環境(特に特別な熟成庫を持たない地ウイスキー)でバーボンバレルの20年というと、気温の高さなどから通常はもっとウッディーなモルトになることが多いのですが、同蒸留所は樽を日本酒の酒粕等の保管庫と同じ場所に置いており、夏場は冷房を入れて温度管理をしているのだそうです。 
樽熟中のウイスキーは、温度の高い夏場を越える度に樽感を濃くしていく傾向にあり、その夏場の温度が空調によって上がらない。それならこの地ウイスキーらしからぬ熟成感も納得です。 


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同社は今後、蒸留設備を拡張し、ビジターセンターも整備していく予定です。 
古くなった設備を一新し、銅製のポットスチルも入れるなどして、ウイスキー業界に本格参入しようとしているわけです。

ただクラフトウイスキーメーカーは、その規模や生産量から大手メーカーのように幅広く原酒を作ることは出来ません。どんな原酒を作っていくか、将来的にどのような味を目指すかというマイルストーンと、最終目標を定めておくことは最重要事項と言えます。 
ターゲットとする客層も重要です。所謂居酒屋でハイボールを飲んでいるだけの層を狙うのか、それともウイスキーにこだわりを持っている層を狙うのか。
前者の場合はクセなど不要で飲みやすい味わいを目指していけば良いですが、待っているのは大手との熾烈な競争です。営業力が低く、どうしても割高になるクラフトには勝ち目の薄い戦いです。
後者の場合は質で勝負ということになりますが、こだわり層に認められる個性を出すことが出来れば、大手とも勝負できます。

このあたりはお互いの問題意識と意見が一致しており、50PPMという麦芽を活かしてヘビーピートで仕込もうということ。現クラフトウイスキーメーカーにない重めなタイプを目指していくことで、差別化を図るという狙いから、富山という地方のイメージを込めていければ良いのではないかという話になりました。
すなわち、どこか不器用で、無骨で若干とっつきにくさはあるけれど、根はまじめで一皮向けば親しみやすいという、クセを楽しめるようなウイスキーです。 
仕上がるには長い時間が掛かると思いますが、日本酒などで経営基盤のしっかりしている企業だけに、腰の入った大物手を狙う打ち回しで勝負して欲しいと思います。

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同社は60年以上前から蒸留を続けているため、多少原酒のストックも残されています。
その中でも最長熟成となるのは1960年蒸留の55年オーバーで、樽は赤ワイン(ポートワイン)樽とのこと。そう、今回リリースされるシングルモルトの原酒です。
熟成庫にはこの樽が複数残されており、これらをバッティングし「シングルモルト三郎丸1960」として発売する運びとなったわけです。 
(上の画像右側がその原酒。濃い色をしていますが、50年クラスとは思えない透明感もあります。)

本品は、発売されたジャパニーズウイスキーとしては山崎50年や軽井沢1960を越える日本最長熟成のシングルモルトという事になり、話題を集めそうです。
既にNonjattaが「三郎丸!?なんだそれ!?サイトは日本語かよ!俺たちも飲みたい!(意訳)」と、興奮気味なポストを投稿しています。
また、残されたその他の原酒をどうリリースするかも注目どころ。少なくとも同社の場合はシングルモルトウイスキーとしての知名度があまり高くなく、評判も決して良いわけではないというハンデがあるため、この辺を払拭するための戦略も必要かなと感じています。 

この後、場所を日本橋に移し、樽のことや原酒のことなど、終電過ぎまで長々と濃い話をさせていただきました。
もう一つ面白い話もあるのですが、これは別な機会にお伝えできればと思います。
ウイスキーブームの中、今後熾烈な競争に身を投じることになる若鶴酒造(三郎丸蒸留所)。地域に根付いた「富山ウイスキー」を発信する蒸留所として、注目していきたいと思います。


追記:最近、ブロガーくりりんとしてウイスキー業界関係者とお話する機会が増えてきており、私のようなただのオタクにこのような機会、恐縮しております。
そろそろブロガー名での名刺もつくらなアカンですかね・・・。なんか恥ずかしいですけど。
なお、この記事で使用している写真は、Iさんならびに富山の腐った梨ことモルトヤマのしもの君からご提供いただきました。
同(梨)氏も先日若鶴酒造を見学したそうで、Iさんの熱意と今後の計画に感銘を受けていました。
今後は富山コンビでウイスキー業界を盛り上げていって欲しいですね!

メーカーズマーク 46 カスクストレングス 55.35% 蒸留所限定

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MAKER'S 46
Cask Strength
Barrel Finished with Oak Staves
375ml 55.35%  (110.7Proof)

グラス:SK2
量:30ml以上
場所:自宅
時期:開封後1ヶ月程度
評価:★★★★★★(6)

香り:焦げたオークと樽材由来のアロマ。キャラメルのような甘さも感じられるが、総じてツンとした木材系のアロマが支配的。

味:リッチでスパイシーな口当たり。メープルシロップや焦げたカラメルを思わせる濃厚さと、軽やかな刺激が口の中に広がる。ボディは軽めだが、そこに濃いオークフレーバーがのっている。口開けはやや樽香が強すぎる印象があったが、徐々にこなれて甘みとビックなオーク香の広がり。
余韻はスパイシーでドライ、キャラメルに加え、加水すると梅味の飴のようなほのかな酸味と甘みを感じる。


蒸留所で限定発売しているメーカーズマーク46のカスクストレングス。
46と言うのは度数ではなく、メーカーズマーク蒸留所に残されている46番目のレシピという意味で「熟成した原酒を、焦がしたオーク棒を10本入れた樽に詰めて追加熟成したもの」ということなのだそうです。

メーカーズマーク46の加水版については日本国内でも広く流通していますが、カスクストレングスは勿論初体験。
なぜ日本未発売のボトルが手元にあるかというと、このブログでは素晴らしい風景写真や、激ウマフォアローゼス、そして疑惑の世界一クラウンローヤルを提供いただいた、現地在住のIさんがお土産として買ってきてくださったのです。
メーカーズマーク蒸留所を訪問された際、蝋封も含めて手作業でボトリングされたボトルということで、実際の作業風景なども動画で拝見しました。なんとも素晴らしい記念品を頂いてしまい、開けるのがもったいなく感じてしまったほどです。(エンブレムに若干掛かるように蝋封するとか、カッコ良いですね。) 

その中身は焦がしたオークのリッチな香味、メーカーズマークらしく軽やかな酒質にマッチして濃厚でありながら飲みやすい仕上がり。やや樽材由来の苦味やえぐみも感じられますが、その分甘みも濃く、ロックにするとスイスイ飲めてしまいます。
ただ、このフレーバーは長く続かず、すぐに水っぽくなってしまうのが残念なポイント。この辺は酒質による違いもあるのでしょう。
 
とはいえ、現行のノーマルなメーカーズマークと比較すると明らかに樽材由来の香味とコクが強く、飲みごたえのあるレベルの高い1本です。
国内で流通していないのは残念ですが、もし現地に行かれる際はボトリングを含めて経験し、旅の思い出に加えることをお勧めします。

ブナハーブン 27年 1988-2015 スリーリバース ダンス 53.7%

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BUNNAHABHAIN
Three Rivers
Aged 27 Years
Distilled 1988 
Bottled 2015
Cask type Butt #629
700ml 53.7%

グラス:サントリーテイスティング
量:ハーフショット
場所:BAR飲み(Y's Land IAN)
時期:直近開封
暫定評価:★★★★★★★(6-7)

香り:リッチでフルーティーなシェリーフレーバー。  黒蜜やチョコレートを思わせる甘いアロマ、オーキーな華やかさはややドライにも感じる。ほのかに干し葡萄の酸味や土っぽさ、全体的に嫌味の少ないシェリー樽熟成香でよくまとまっている。

味:少し粉っぽい口当たりからねっとりとした甘さ、香りの印象同様に嫌味の少ないリッチなシェリー感に加え、軽やかなスパイシーさとオーキーなフルーティーさ。アプリコットジャム、オレンジピールチョコレート。鼻抜けにほのかな硫黄香がある。
余韻はねっとりしたシロップの甘さに淡いウッディネスが心地よいドライさに繋がる。パッションフルーツや柑橘類を思わせるドライフルーツが充実している。 


ブナハーブンでシェリーというとえぐみが強くゴムゴムしく、個人的には閉口してしまう印象が強かったところ。
しかし1980年代後半から1990年代前半蒸留のモノには「おっ!」と思うものがいくつか出てきており、特にこのスリーリバースのダンスは、今まで飲んだ1980年代蒸留ブナハーブンの中では頭一つ抜けて良い出来のシェリー樽熟成モルトだなと感じました。
直近のリリースと比較して、マスコットキャラのVサインを獲得していないのが不思議なほどです。

シェリー樽モルト特有のリッチで深い甘みのある口当たりから、樽材由来のえぐみは控えめで、ドライフルーツを思わせる香味がすぐに開いてきます。
ブナハーブンらしくピートは皆無で、シェリーの影響により塩気などの地域特有の要素もありません。余韻はほろ苦くほのかに硫黄香が鼻に抜けるのですが気にならない程度。メーカーコメント同様に柑橘系のドライフルーツを思わせるほのかな酸味と果実味も感じられます。
ホグスヘッドでフルーティーなモルトというのは良くあるのですが、これはバット表記でありながらこうした傾向のある香味は、何か特別な樽なのかなと感じます。バットの27年熟成で224本ボトリングってのも少ないですし・・・少なくとも、ただのシーズニング樽ではなさそうです。

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1980年代はスコッチのシェリー樽モルトにとって暗黒時代に等しく、大きく質を落とした時期でした。
黄金期といわれた1960年代の原酒は枯渇し、シェリー樽モルトはもうダメなのか。。。と思っていましたが、それが1990年前後の時期から質を戻しつつある蒸留所が見られます。
こういうボトルを飲むと未来のウイスキーに希望が持てますね。
評価は7にしようか迷いましたが、今後の変化の触れ幅をとって6-7とします。

カーデュー 18年 43% オフィシャルボトル

カテゴリ:

CARDHU
Single Malt 
Aged 18 Years
43% 700ml

グラス:SK2
量:30ml以上
場所:自宅
時期:開封後2〜3週間程度
評価:★★★★★★(6)

香り:華やかで若干のケミカルっぽさも伴う、シロップやドライアプリコットを思わせる甘い香り立ち。徐々にワクシーで白っぽい麦芽香。ほのかにオーキーさも感じられる。

味:スムーズで滑らかな口当たり。やや水っぽいが杏棒やふ菓子を思わせる駄菓子的な甘み、奥には砂糖漬けの金柑のような柑橘系のニュアンスも感じられる。
余韻はドライで、徐々に舌の水分を奪っていく。また、ケミカルなフルーティーさが戻ってくる。


ジョニーウォーカーのキーモルト、という以外に、日本では12年くらいしか広く流通していないカーデューですが、実際は幾つかのNA品に加え15年や18年、そしてカスクストレングスでリリースされた21年など、幅広いラインナップのある銘柄です。
並行品としてそれらが入ってきていましたので、折角なので試してみます。

12年は中性的で若さが残る味わいでしたが、流石に18年は熟成を感じる味わい。
麦芽風味にオーキーな華やかさも備わって、オフィシャルのバッティングらしく複雑さを感じる仕上がりとなっています。
この華やかさは21年で感じるほど強いものではありませんが、同じベクトルにある原酒が使われていることは認識できます。
変わりに18年のメインキャラクターとしては、駄菓子を思わせるような甘さのある麦芽風味。奥にはアイリッシュにあるようなケミカルなフルーティーさも感じられますが、これは15年のほうが強く。嫌み少なくスムーズでスウィート、まとまりのある味わいです。

強い個性があるモルトではありませんが、それがブレンデッドの中核としては使いやすいのでしょうか。
BARで飲むなら最初の1杯目でしょうけれど、こういう甘くてスムーズなタイプは、後への繋ぎが難しいですね。

シーバスリーガル18年 ゴールドシグネチャー 43%

カテゴリ:

CHIVAS REGAL
Aged 18 Years
Gold Signature
43% 700ml

グラス:テイスティング
量:30ml
場所:BAR飲み
時期:不明
評価:★★★★★(5)

香り:華やかでフルーティーな香り立ち。リンゴのコンポートー、洋梨、エッジのたったオーク香。好ましい熟成感がある香り立ちだが、持続力がなくすぐにドライなアロマ中心になってしまう。

味:スムーズな口当たり。ライトでオーキーで乾いた木や麦芽風味、そこからドライアップルを思わせる華やかなフルーティーさが広がる。
余韻はビスケットや麦芽風味で穀物様、スパイシーでややドライな余韻。


たまにこうして現行品のブレンデッドを頼んだりするのですが、素性が割れてるお店で注文すると「え?」と怪訝な顔をされることが多いのはどうしたものか(笑)。
いやいや、自分だってスタンダード飲んでるんですよ、ということで今回はそんなスタンダード品からシーバスリーガル18年です。

華やかでオーク系の熟成したモルティーさを感じる香味に軽やかな口当たり。
通常ラインナップハイエンドの25年が、そうしたスペイサイドモルトの華やかな香味が強く感じられるのに対し、18年はそこへのベクトル上にあるものの、弱いというより線が細いという感じで、絶えず発散できずに一度ノージングすると再チャージするまで一呼吸必要なタイプです。
この辺はグレーンの影響なんでしょうね。癖のない味わいで、スイスイ飲めてしまいますが、先述したボディの細さは少し気になりました。

ただ、一般的にはそこまで求められているわけでもなく、完成度は充分。
あとはこの価格帯なら個性を求める人はシングルモルトどうぞ、飲みやすさはブレンデッドどうぞと、そういう感じなんですね。
1年ぶりに飲んでイメージの保管ができました。また1年後くらいにお会いしましょう。

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