アーカイブ

2016年01月

ウイスキーを飲むこと 情報を飲むということ

カテゴリ:

最近ブログ読者の方々から、テイスティングについて質問を受けることが度々あります。
自分のような素人がそのような質問を頂くことは光栄であり、しかしながら自分よりセンスと精度のあるテイスティングをする方は大勢いるという現実に、複雑な気持ちを抱えています。
まあせっかく質問を頂いたわけですし、お茶を濁した回答も申し訳ないところで、「テイスティングに関する話」を不定期にまとめていきたいと思います。
とりあえず今回はつれつれととりとめないままに。


「ヤツらはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ。」
知っている人も多い、"ラーメン発見伝"という漫画の最初期に登場する、衝撃的なセリフです。
確か掲載されたのは10年以上前。当時自分の実家は現役の中華料理屋だったので、このセリフはいろんな意味で響くものがあって、こうしてウイスキーについてレビューを書くようになった今もまた、時折思い起こす言葉でもあります。
 
んなもん知らないよ。という人向けに一応セリフの前後をまとめると、
主人公一向がある有名ラーメン店で人気のラーメンを食べます。
そのラーメンはこだわりぬいた食材を使った逸品と言う売り出しで、大半の常連客や雑誌のレビューなども、材料由来とされる風味を絶賛していました。
ところがそのラーメンは、濃い味付けが原因でそんな風味をまったく感じないシロモノであり、主人公はその点を店主に指摘します。
いくつかのやり取りがあった後、店主から上述のセリフが出てくるわけです。
 うーん、この悪どい顔…(´Д` )

ここでいう「ヤツら」とは、原料由来の味が消し飛んだラーメンから、その味がすると絶賛する客のことです。それは情報を食べて満足しているにすぎないと。
正直これは痛い程に事実であり、我々が味覚嗅覚等5感6味からくる情報を脳で処理している関係上、多かれ少なかれ様々な情報が影響し合うことは避けられません。
「テイスティングは脳でする」、「味わいの認知科学」等様々な書籍でも触れられていますが、味わうという行為と脳の働きは、切っても切れない関係にあるワケです。


さて、この言葉をウイスキーに当てはめて考えてみると、各メーカーのリリースからは、そうした商品の位置づけが見えてきます。
例えばドラマですっかり有名になった、ニッカウヰスキーのスーパーニッカ。
ジャパニーズウイスキーの父、竹鶴政孝が波瀾万丈の人生の中で、持てる技術と原酒、そして亡き妻への想いを込めて、ボトルにまでこだわりぬいて作った渾身のウイスキー。
というドラマチックな背景があるのですが、現行品は原酒構成もボトルも別物で、ことその風味に関して直接的な関係はほとんどないと言えます。

もう一つ例を出すと、ブルイックラディのオクトモア。
ファーストリリース時点から100ppm以上のピートを炊きこんだ、史上最強のピーテッドモルトシリーズ。昨年リリースされたオクトモア06.3アイラバーレイは、ピートレベルは258ppm(アードベッグの約5倍)に加え、原料にはアイラ島のオクトモアフィールドで栽培された麦芽のみを使用。5年間アイラ島の潮風と肥沃な土の香りの中で熟成させた、オールアイラ産のヘビーピーテッドモルトであることを売りにしています。
ピーティーさを極めることは無駄とは言いませんが、これではただでさえ蒸留によって消えやすい麦芽の特徴などないも同然です。聞くところによると人間が感知できるピートの上限を超えているという話もあります。
 
どちらのウイスキーにもさまざまな形で情報があり、中には味わいとは実質無関係と言う事例もあるのは上記の通りです。
ウイスキーには多くのバックストーリーがあり、我々は知る知らないに関わらずそれを飲んでいるのです。


では、情報は知らない方が良いかというとそんな事はありません。
ウイスキーを楽しんで美味しく飲むきっかけになりますし、思い入れのあるものであれば、なおのこと美味しく感じることも出来ると思います。
人間が好みを形成する要素については、4要素があるという解説があり、情報もまた重要な要素の一つとされています。
"知るほどに美味い"とはよく言ったもので、つまりウイスキーを深く知ることは美味しく飲むための一歩であるわけです。

「味の好みを決める4つのおいしさとは」
 

ただしテイスティングをするうえでは、これだから美味いはずというような混同する考え方はするべきではなく、情報のみ先行してしまうことは最も注意すべき点だと感じます。
「美味しいと感じたのか」、「美味しいと思うように感じたのか」、無意識というのもは恐ろしく、知らず知らずに影響を受けているのが脳の働きと味覚の関係。この差は非常に大きいワケです。 

そうした影響を知りたいなら、誰でもで来る検証方法が、ノーヒントのブラインドテイスティングです。極端な話、自分が苦手だと思っていた銘柄を美味しいと感じたり、その逆もあったり、事前情報がないだけで認識が大きく変わる事があるくらい。
自分が率先してブラインドをする理由の一つがこれであり、オープンテイスティングでの評価軸と、ブラインドテイスティングでの評価軸にブレが生じていないかを確認するという目的もあります。

インターネットの普及で手軽に情報が手に入るようになった昨今、10年数前は欲しくても手に入らなかった情報がすぐ手に入る、情報が手に入りやすいがために知識と経験の逆転現象が起こりやすい状況になっています。
知識と経験、鶏と卵でどっちが先かという話でもありますが、この場合はどっちも先という答え。精度の高いテイスティングを目指して、知識も経験もバランス良く、頭でっかちにならないように気をつけたいものです。


追記:1/25のIANでのバーンズナイトでお会いした皆様、楽しいひと時をありがとうございました。
しかし会の最中に寒気が出てきて辛さとの戦いになり、せっかくの交流もおざなりになってしまったように思います。申し訳ありませんでした。
結局限界を感じて早めに帰宅、その後は39度後半の発熱で、ほぼイキかけました。(インフルではありませんでしたのでご安心ください。)
熱は1日で下がりましたが酒は飲めませんので、今回はこんな感じでとりとめもない話です。熱で寝てる間暇だったんですよ〜。
今後ともよろしくお願いします!


グレンフィディック21年 グランレゼルヴァ ラムカスクフィニッシュ サントリー正規品

カテゴリ:
GLENFIDDICH
21 Years Old
Gran Reserve
Rum Cask Finish
40% 700ml
評価:★★★★★★(6)
 
香り:華やかで軽やかな香り立ち。オーキーな乾いたウッディーさ、胡桃、洋梨、ドライアップル、あくまで軽やかで心地よい。時間と共に微かなスモーキーさも感じる。
 
味:スムーズでライトな口当たり、序盤はオークフレーバーに蜂蜜、青りんご、奥には麦芽風味。口当たりはライトだが後半にかけてフレーバーが広がってくる。
フィニッシュはややドライで、微かなピートフレーバーにオーク、オレンジピールやドライフルーツ、多層的なフルーティーさを伴って細く長く続く。
 

昨日1月26日に、サントリーから日本国内向け正規品として発売されたうちの1本。
ただ実際は2013年頃から免税店向けとして流通していただけでなく、日本国内にも昨年サントリーが発売を発表した時点で既に並行品として入ってきており、少々今さら感のあるボトルでもあります。この点に対する蛇足は後述するとして、まずはボトルの総括を。
 
グレンフィディックは12年を飲んでいただければわかるように、酒質の強いタイプではなく、穏やかで華やかな、まさにスペイサイドというウイスキーです。
そのため、シェリー系の原酒は個性が吹っ飛んでしまう傾向にあり、同傾向でマッチしやすいバーボン樽系の原酒でも長期熟成となれば樽要素が強く出て、いずれにしても酒質由来の要素は裏方に回る印象があります。
今回の21年はシェリー樽原酒とバーボン樽原酒をバッティングした後、ラム樽で4か月間のフィニッシュを兼ねたマリッジ。飲み口柔らかく、華やかな風味は例えるなら日本酒の大吟醸というイメージ。シェリーではなくバーボン系の特徴を感じる味わいで、らしさは裏方に回っていますが、癖の少ないフルーティーさに底支えとなる麦芽風味、そしてオフィシャルバッティングらしい多層的な味の広がりは、グレンフィディックの正常進化系として納得できる構成です。大多数の人が飲んで飲みやすく、美味しいと感じる味だと思います。
最近、現行品からオールドまで、グレンフィディックを飲む機会が多いのですが、1970年代以降のこの蒸留所の安定感は目を見張るものがありますね。
 
なお、飲み方としてはストレート向きで、ロック、ハイボール共に可もなく不可もなく。ロックだととにかく飲みやすく、悪くはないですが自分のようにハイプルーフに慣れた飲み手には水のようです。ハイボールだとオークフレーバーだけが残って、少々腰砕け気味逆に感じました。
 
 
以下は後回しにした蛇足的なこと。
今に限った話ではないかもしれませんが、消費者側から見ていると、正規品に対して並行品が流通をリードする場面が多く見られます。ことこの1年に限ってもノブクリーク、スキャパ、アードモアなど、正規品の発売が1年遅れはザラ。ラフロイグなんて市場に多様なボトルが流通していますが、今や半数以上が並行品です。
これは並行業者の努力が、我々のようなもう一歩踏み込みたいファンに、さらなる選択肢を与えてくれているわけですが。在庫が安定しづらい並行品に対して、一定量を長期に渡って供給出来る正規品が後追いで補完する、Win-Winの関係とも言えます。
しかし国によっては、~~向けというオリジナルボトルの発売があるなど、正規側がリードしているケースもあります。製造元との調整やら色々あってそう単純な話ではないんでしょうけれど、サントリーさんにはもう少しがんばって欲しいと、いち愛好家として願っています。

グレンエルギン 20年 1976年蒸留 1996年ボトリング ブラッカダー

カテゴリ:
GLEN ELGIN 
Blackadder Limited Editions 
Aged 20 Years 
Distilled 1976 
Bottled 1996 
46.3% 700ml 
評価:★★★★★★(6)

香り:華やかで甘いオーク香、バニラ、白粉、オレンジリキュール、ドライアップル。ただオーキーなだけではなく、麦芽の白い部分の甘い香りにオレンジ香料のような爽やかさも混じる、上品な香り立ち。

味:ボディは軽めだが、やや粘性がありスパイシーな口当たり。香り同等に華やかなオーク香と麦芽風味、薄めた蜂蜜、スポンジケーキ。余韻はドライで微かにピーティー、オーキーであっさりしている。

ブラッカダーが現在のロウカスクシリーズをリリースする前、1990年代にリリースしていたリミテッドエディションシリーズ。ブラッカダーの代名詞ともなった「樽の粉末」もまだない時代のボトルです。
樽に関する記述はありませんが、味や度数、ボトリング本数等からリフィルバーボンホグスヘッドだと思われます。
この手のボトルは中々巡り会えないので、近い味わいで近年のリリースのモノも合わせて紹介すると、まず思い当るのが鹿児島の酒ショップKinkoさんと北海道のBow Barさんがリリースした、グレンエルギン37年(1975-2013)。以前このグレンエルギン37年をブラインドで出された時、今回のボトルを飲んでいたのでグレンエルギンと指定できたこともありました。
 
グレンエルギンはオフィシャルリリースこそ少ないものの、各ボトラーズから数多くリリースがあるため、多様なキャラクターを味わうことができる銘柄の一つです。
中にはなんじゃこりゃと首をかしげてしまうようなえぐいシェリー系のボトル等もあるわけですが、今回のボトルはバーボンオーク由来と思しきオーキーな華やかさと、酒質由来の麦芽風味やオレンジのアロマが感じられる、20年という適度な熟成がもたらす負担の無い仕上がりです。
同蒸留所の特徴でもある麦芽の甘味ははっきり感じられ、ピートフレーバーは控えめ、ボディは軽く柔らかい。締めの1杯というよりは、最初、あるいは2~3杯目で飲みたい感じです。

ジムビーム 5年 1960年代〜70年代流通

カテゴリ:

JIMBEAM
5 years old
1960-1970's
1quart 86proof
評価:★★★★★★★(7)

甘く濃厚な樽香、熟したバナナ、メープルシロップ、クッキー、少し粉っぽさ。滑らかな口当たりだがコクと厚みがあり、濃い樽の風味をしっかり受け止めている。
余韻は穏やかでウッディーな苦味とメープルシロップの甘さ。スパイシーな刺激はなく、最後までスムーズ。


暖冬と聞いていたのにこの寒さですよ。こうも本格的に寒くなってくると、バーボンが恋しくなります。

特に雪が舞うような日はバーボン、それもオールドバーボンの濃厚な甘さが欲しい。スコッチタイプのウイスキーはそこそこストックしてあるのですが 、バーボンに関しては全くと言っていいほどストックが無く、なんかあったかなーと、1本だけあったジムビーム5年を開封しました。

 

ジムビームのスタンダードは4年、たかが1年と思うやもしれませんが、熟成が早いバーボンでその違いは大きいですね。 以前 このブログで取り上げた4年の同時期流通とでは明らかに濃さが違います。

口に含んだ後のとろみ、甘さ、そして余韻に表れるウッディーな渋みと苦み。自分が好きなオールドバーボンの要素がそこかしこに感じられます

ただ、あまりにスムーズでちょっと物足りない印象を受けるのは、度数と言うよりジムビーム蒸留所の個性なんでしょう。ストレートのみならず、ロック、ハイボールと飲み方を変えても楽しめます。


 

こうしたバーボンのオールドボトルを飲んでいて不思議に思うのが、現行品との味の濃さの違いです。

流通時期で見るバーボンの全盛期は1990年代だったと言われています。長期熟成に加えてハイプルーフ等、多種多様なリリースが、それも比較的手ごろな価格で流通しました。

それが今や見る影もなく、スタンダードリリースの味わいはどんどんライトに。メープルシロップやチェリーを思わせる甘味は薄くなり、木のえぐみやセメダインのような刺激臭だけは残っている。

この違いはどこから来るのか。スタンダードクラスではなく1万円以上するプレミアムクラスのバーボンにはそれ相応に魅力的な味わいが感じられるので、原料や製法の違いよりも、樽の違いが大きいのかなと見ています。


ただ自分のバーボンの製法に関する知識はスコッチ以上ににわかも良いところ。ちょうどつい先日、川口にあるバーボンの名店、 ミルウォーキーズクラブ監修のバーボンの製法に関する書籍が発売されたそうなので、取り寄せて勉強してみようと思います。

富士御殿場10年 2002年蒸留 2012年ボトリング シングルカスク

カテゴリ:
FUJI GOTENBA 
Single cask whisky 
Cask No, M000806 
Aged 10 years 
Distilled 2002 
Bottled 2012 
640ml 45% 
評価:★★★★(4) 

香り:ツンとドライな香り立ちで、香りの質は重くなく軽やか。
ビニールや新しいゴム製品にあるようなケミカルな異臭と エステリーな華やかさ。未熟なバナナ、ドライパイナップル、アーモンド、時間とともにニューポット系の若いアロマ。

味:やや若いえぐみと酸味、そしてほろ苦いオレンジピールを思わせる風味の広がり。バニラ、湿気ったクラッカー、植物の茎、オリーブオイル、漢方系ののど飴。
余韻はほろ苦く、あまり長くはない。


富士御殿場蒸留所で2015年末に突如販売された限定品のシングルカスクウイスキーです。
御殿場蒸留所での限定販売は、基本的にはグレーンが中心なのですが、不定期に限定のシングルカスクモルトウイスキーが販売されることがあります。
今回販売されたボトルは2012年ボトリングのもので、何かのイベントでボトリングしたものの余りだという話。御殿場モルトの華やかな風味は好みなのでこれはうれしいサプライズです。ウイスキー仲間から情報があり、1本購入させていただきました。

期待を胸に口開けで飲んでみると、これが如何ともしがたい雑味というか異臭が…。
ゴムというか、長靴というか、ビニールの臭いというか、違う意味でケミカルな感じ。それでもその奥には御殿場らしいエステリーなフレーバーが感じられる。これはブレンドに忍ばせるには面白いけど、単体だと中々苦しいなと、テイスティング時期はずらすことに決めました。
その後、個人開催のウイスキー会に参加した際にこのボトルも持ち込んで、好きに飲んで良いよと置いたところ随分な売れ行き。普通に美味しかったという評価で、お墨付きもいただき今回のテイスティングとなりました。
まあ改めて飲んでみても、あんまり変わって無かったわけですけどw
あの時は他にも色々飲んでましたし、グラスもリンスで使い回しだったので、良い方向に味が変わったんだろうなと思います。やはりブレンドで光りそうな原酒です。

御殿場蒸留所はニッカ、サントリーの4蒸留所に比べると原酒の人気の面では劣りますが、決して実力が無い訳ではなく、もっと評価されていい。
それこそ終売になった18年やエバモアのように、長期熟成原酒で腰を据えたブレンドに関してはコアファンからも定評があります。
差し当たって3月にリリースされる新商品などにも、こうした傾向が出てくれるといいなと願っています。

このページのトップヘ

見出し画像
×