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NAGAHAMA 
Single Malt Japanese Whisky 
Aged 3 years 
Distilled 2017.1.26 
Bottled 2020.4.20 
Cask type Bourbon Cask #0007 
500ml 61.3% 

グラス:テイスティンググラス
時期:開封後1週間程度
評価:★★★★★★(5-6)

香り:柔らかい香り立ちから、オーキーな華やかさ。樽由来の甘いアロマは、バニラや林檎の蜜、微かに木材の削りカスのような粉っぽさを感じる。

味:口当たりはねっとりとしたオーク由来のフルーティーさと合わせて、若い原酒由来の刺激と酸味が混じる。加熱した林檎や黄色い果実、じわじわと柑橘の皮を思わせるほろ苦さ。フィニッシュはオーキーでドライだが、60%以上の度数を感じさせない柔らかさもあり、長く続く。

若い原酒にバーボン樽という組み合わせだが、温暖な地域で熟成されていたこともあってか、熟成年数に反して濃い目の樽感、オーキーなフレーバーが主体。樽感と合わさる長濱の原酒は、蒸留直後から柔らかくクリアな麦芽風味で、若さに由来するネガティブなフレーバーは目立たず、むしろ樽感と合わさることで蜜っぽい甘みへと姿を変えようとしている。ピークが短熟傾向にあり、現時点で3年とは思えないクオリティの高さ。2~3年後が楽しみな原酒である。

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長濱蒸留所のファーストリリースとなるシングルモルト3種のうちの1つ。2017年に蒸留された原酒を、バーボン樽に詰めて3年熟成させたシングルカスクで、この他にミズナラ樽、シェリー樽がそれぞれリリースされています(以下、写真参照。)

長濱蒸留所の原酒の特徴は、酒質の柔らかさに加え、若い段階でも発酵臭や硫黄といったニューメイクにあるネガティブな要素が少ないことが挙げられます。
ボディはライト~ミディアム程度で長熟向きではありませんが、逆に樽感が強く出やすい熟成環境と合わさることで、5年もあれば酒質の若さと喧嘩せず、バリっと樽が効いた仕上がりが期待できる。今回は3年ということでまだ成長途中と感じる部分はありますが、バーボン樽由来のオーキーさとフルーティーさの中にその片鱗があるというか、完成図が見えるようなリリースとなっています。

ここまで読んで、つまり長濱蒸留所はカヴァラン系統ってこと?と感じる方も居るかもしれません。
確かに樽感が短期間で仕上がるという点は同じですが、カヴァランはニューメイク時点でボディが非常に軽く、樽の要素によってフルーティーさの出やすい、樽感を邪魔しない酒質である一方。長濱はカヴァランほどボディが軽くないモルティーな甘みの残るタイプで、樽感と混じることで蜜っぽい質感にもなっていくような系統の違いがあります。

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(長濱蒸留所、待望のシングルモルト・ファーストリリース3種。それぞれ使われている樽の特徴がはっきり出ているだけでなく、ネガティブ要素の少ない酒質が樽感に溶け込み、3年とは思えない仕上がりである。王道的な美味しさはバーボン、複雑さ・面白さはミズナラ、わかりやすい味としてはシェリーカスクという印象。残りの2種も追ってレビューする予定。)

長濱蒸留所は、1996年創業のクラフトブリュワリー長濱浪漫ビールが、その製造現場の一部を改装してウイスキーづくりの設備を併設したものです。
ウイスキーの入門書籍等で、ビールとウイスキーは親戚で、途中まで製造行程は同じなんて説明があったりしますが、長濱蒸留所はまさにその説明の通り、共有できる設備は共有したコンパクトな設計となっています。
それこそ下の写真だけで、麦芽の粉砕以外の、糖化(写真右)、発酵(写真上)、蒸留(写真中央奥)の3行程が含まれているだけでなく、併設するレストランまで映り込んでいるあたり、日本最小と言われるそのサイズ感が伺えると思います。

原酒の仕込みでは、ノンピート、ライトピート、ヘビーピートといったピートレベルの違いに加えて、コーヒーモルト等原料を変えたモノも仕込まれています。
今回リリースされたのは、スタンダードなノンピート仕様。酵母はDistilaMaxで、糖化・発酵は写真に写るクラフトビールと共同利用のタンク。蒸溜に使われているアランビックタイプの小型蒸留器2基(後に3基に増設)は、銅との接触面積が大きくなるためか、あるいは蒸留の際にそうした酒質を狙って蒸留器の温度や内容量、カットポイント等を調整しているためか、酒質は雑味が少なく柔らかいモルティな甘みが感じられる仕上がり。
この質感が、最近流行りのハイブリットスチルや、スタンダードなポットスチルによる原酒とは違う、長濱蒸留所の個性だと感じています。

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さて、ファーストリリースの話は残る2本の更新に先送りするとして(ここで書きすぎるとネタがなくなるw)、そろそろ長濱蒸留所”そのもの”についても紹介していきます。
写真だけ見ると、規模の小ささと効率化された設計が目立つように思えますが、個人的には、それら設備の繋ぎ部分の原始的な工程や、ビアパブ併設という一般のウイスキー蒸留所とは異なる環境が魅力であると感じています。

例えば蒸留行程では、まず2Fの発酵槽から蒸留器へとホースを垂らしてもろみを移し、蒸留後はスピリッツセーフがないので写真のような桶にためて、人力でスピリッツタンクに移すという重労働を1日に何度も繰り返していたり・・・熟成も、蒸留所から離れた場所にある関係上、樽詰めされた原酒がトラックで現地まで運ばれていたり・・・小さい蒸留所だからコンパクトで効率化されているわけではないという手作り感があります。

蒸留所の雰囲気としては、一般的なウイスキー蒸留所にあるような工場や酒蔵的なそれとは異なって、まさにパブの中の蒸留所。オリジナルビールを店内で作っているビアパブは珍しくありませんが、ビールとウイスキーを同時に作っているパブは、世界広しと言えど長濱蒸留所・長濱浪漫ビールだけではないでしょうか。
蒸留所見学を見学していると、同時に食事目当てのお客さんが多数来店され、ワイワイと楽し気な雰囲気が全体を包んでいるのです。

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ちなみに、この長濱浪漫ビールが作るビールのキャラクターは、主にホップをしっかり効かせたIPAタイプのビール。これが本場にも負けないレベルの美味さで、個人的に蒸留所訪問の楽しみでもあったりします。
スタンダード品でも十分レベルは高いのですが、定期的に限定品がリリースされるなど、面白い取り組みをいろいろ行っているため、ウイスキーと合わせて是非一度飲んで欲しいなと感じています。(ウイスキーファンにはIPA系のビールが好きな人、多いですよね。)

それこそ、高品質なビールがあるということは、ウイスキーとのタイアップも期待できるということですし。今後ウイスキーのリリースが拡充されていけば、ウイスキーに加えてビール、そして美味しい料理と酒飲みの楽園のような環境が蒸留所内に充実していくことにもなります。
現在はなかなか現地に行くことが難しい状況ですが・・・、長濱浪漫ビールのビールはメーカーサイトの直販に加えて、提携しているリカーマウンテンでも購入可能です。最近気温が上がり、ビールが美味しい季節にもなってきました。今回のリリースを通じて長濱蒸留所を知ったという方は、ウイスキーと合わせて長濱のビールも楽しんでみてほしいです。

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(写真上:長濱蒸留所併設レストランの近江牛のたたきと長濱ハイボール。写真下:長濱ロマンビールから季節限定ビールの第4弾・レモンホップIPA。IPAらしくホップがしっかり効いた味わいに、レモンの爽やかさと甘酸っぱさ。室内の照明の関係で色の映りが悪いが、個人的にはかなりヒットなビール。)