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THE AKKESHI 
Single Malt Whisky 
"Sarorunkamuy" 
Lightly-Peated 
Bottled January 2020 
200ml 55% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封直後
場所:自宅
評価:★★★★★(5)

香り:干し草や木材が焦げたようなスモーキーな香りに、若い原酒の乳酸やレモングラスのような柑橘香から、バニラや蒸した穀物のような甘さ、ほのかに黒砂糖。ニッキを思わせるスパイス香がピートと合わせて感じられる。

味: やや酸を感じる若いモルティーさから、クリーミーでピーティーな口当たり。ホワイトペッパーを思わせるスパイスとオークのバニラ、ローストした麦芽のほろ苦さにレモンバウムのような駄菓子的な柑橘感が続く。 
余韻で鼻腔に抜けていくミズナラのスパイシーかつウッディさをアクセント、土っぽさと焦げたようなピーティーなフレーバーが長く続く。

強くはないが主体的に感じられるピート香と、ミズナラ樽のスパイシーさを軸に複数の樽感とが若さを中和し、バランスよく仕上げてある。ピートはヨード等のアイラタイプではなく、スモーキーで木材が焦げたようなほろ苦さ。ボディにあるコクのある甘味、余韻にかけて鼻腔に抜けるミズナラ香が良いアクセントになっている。加水すると燻した麦芽のスモーキーさと、若い原酒の酸が目立つ。これまでリリースされてきた厚岸ウイスキーの集大成。ヒンナ。

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ファン待望、厚岸蒸留所初のシングルモルトリリース。3年以上熟成した2016年蒸留のノンピート、ピーテッド原酒をブレンドしたもので、樽はバーボン、シェリー、ワイン、そしてバッティングの軸になる原酒は、北海道産のミズナラ樽で熟成させたピーテッド原酒を使用した、こだわりの1本です。

厚岸蒸留所は目標のひとつにオール北海道産のウイスキーを掲げており、このファーストリリースはゴールではなく始まりとして、軸になる原酒を北海道産ミズナラ樽のものにしたのではないかと推察します。
その中身は3年熟成のシングルモルトであるため、多少なり若さは見られます。
ただ、他のクラフト同様に現時点ではこれ以上の熟成年数のものはない訳ですから、若さをもってNGとする評価は、無い物ねだりというか違うモノ飲んでくださいとしか言えません。その上でこのリリースの見所はというと、複数の原酒の織り成すバランス、そしてこれまでリリースされてきた、ニューボーン4作との"繋がり"にあると感じました。

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(厚岸蒸留所リリースの系譜。過去4作のニューボーンは、それぞれに意味や位置付けがあるが、サロルンカムイはこれらの集大成であるように感じられた。また3年未満でSpirit表記だったものが、いよいよ今作でSingle Malt表記となったのも感慨深い。過去4作のレビューはこちら

これまでリリースされたニューボーンは、上の写真の通り
・1st:ノンピート原酒(バーボン樽)
・2nd:ピーテッド原酒(バーボン樽)
・3rd:ノンピート原酒(ミズナラ樽)
・4th:ブレンデッドウイスキー(バーボン、ワイン、シェリー樽)※ほぼノンピート
以上の構成でリリースされてきました。
1stはまずベースとなるプレーンな厚岸蒸留所の酒質を、2ndと3rdは将来のシングルモルトとしてのリリースを見据えた同蒸留所のスタイルを、そして4thはブレンデッドウイスキーとして同蒸留所の方向性、ワインやシェリー樽等の過去使ってこなかった様々な樽を用いるスタイルとして。
いずれもそれぞれが、将来の厚岸ウイスキーを見据えたマイルストーン的な意味を持っていました。

一方、サロルンカムイのフレーバーを紐解いていくと、その先はこれらすべてのニューボーンにたどり着くように感じます。
軸となっているミズナラ樽の原酒は言わずもがな、熟成を経たピーテッドモルトや、ノンピートのバーボン樽原酒のキャラクターが随所にあり、特にピートフレーバーはノンピート原酒とのバッティングでライトに整えられて全体のなかでアクセントになっている。

また、比率としては少ないものの、ミズナラとピートという厚岸蒸留所がシングルモルトの主要要素に考えるフレーバーを潰さず、ブレンデッドウイスキーで言うグレーン、蕎麦で言う小麦粉的な繋ぎの役割を果たして全体の一体感を産み出している、シェリー樽やワイン樽由来のコクのある甘味の存在。
これは何の裏付けもない考察ですが、まるでニューボーンで表現された個性をパズルのピースに、足りない部分を補ってひとつの形に仕上げた集大成であるように思えました。

集大成というと、これをもって厚岸蒸留所の旅が完結するかのような表現にもなってしまいますが、むしろここからが本当の始まり。北海道産の原料を使った仕込みはまだまだこれからですし、熟成していく原酒のピークの見極め、厚岸産牡蠣とのペアリング。。。何より創業時に掲げられた、アイラモルトを目指すという理想も残されています。厚岸蒸留所の独自色は、まさにこれから育とうという段階にあります。
ですが、まずこの段階で3年モノとしてリリースできるベストなシングルモルトを作ってきたのかなと。その意味で、集大成であると感じたのです。


記念すべきファーストリリースに銘打たれた"サロルンカムイ"は、アイヌ語でタンチョウヅルを体現する神、湿地にいる神を意味する言葉であり、ボトルもそのイメージに合わせて白と赤のカラーリングとしてあります。
厚岸蒸留所は別寒辺牛湿原に隣接する土地に建てられているだけでなく、今後国産ピートの採掘も行われる予定であることから、湿原の神様との関わりは切ってもきれないものです。
お酒を神様に捧げるのは八百万の神が住まう日本的な発想ですが、ウイスキーが神秘を内包するものである以上、厚岸蒸留所の今後に一層の加護があればと思えてなりません。

月並みですが、樋田社長並びに厚岸蒸留所の皆様、3年熟成となるシングルモルトのリリース本当におめでとうございます。
この約2年間のニューボーンのリリースやイベントでの原酒のテイスティング等を通じ、ファーストリリースに向けた濃密な準備期間を経験できました。
今後のリリースも楽しみにしております。