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YOICHI 
NIKKA SINGLE CASK MALT WHISKY 
For 20th Aniversary NIPPON MARU 
Aged 19 years 
Distilled 1990.12.22 
Bottled 2010.2.4 
Cask No, 128853 
750ml 61% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:不明
場所:自宅@テイスティングサンプル
評価:★★★★★★★★(8)

香り:メローなウッディーさ。松の樹皮やどんぐり、燻したような麦芽香の後からチャーオークの焦げ感を伴うバニラとキャラメルの濃厚なアロマ。樽香の奥にはチョコチップクッキーのような香ばしさを伴う甘味と垣間見える熟した果実感。強くはないが存在感のあるピートスモークに、微かに溶剤的な刺激も伴う。

味:リッチでメロー、パワフルでどっしりとしたボディ。キャラメルを思わせる甘味に松の樹皮やアーモンドのようなビ武骨なウッディさと香ばしさ。そこに熟したオレンジの果汁を思わせる甘酸っぱさが溶け込み、余市の酒質由来の要素を感じる。
余韻はややハイトーンでスパイシー。漁港を思わせる海の香りがウッディな樽香と共に鼻孔に届く。カカオの苦味、焦げたウッディさはこなれており、染み込むように長く続く。

麦、ピート、樽、そして時間がもたらすそれらの融合。余市が余市たる味わいが詰まった素晴らしい1本。60%を越えるハイプルーフだが、熟成によって口当たりはこなれ、それでいてパワフルでフルボディな新樽フレーバー。樽感の奥に潜む多彩なレイヤーから、余市における円熟味を味わえる1本とも言える。加水するとマイルドで、麦芽由来の甘味が開く。

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縁あって大変貴重なボトルをテイスティングさせていただきました。
それは、クルーズ船日本丸の就航20周年を記念し、船内限定で発売されていた余市のシングルカスク。流石豪華客船、凄い樽引っ張ってきたなと言う感じですが、リリース当時はブーム到来前。まだ普通に余市20年や、年に1度のヴィンテージシリーズが販売されていた頃ですから、この手の原酒が販売されていても違和感はありません。

他方で違和感という意味では、日本丸は商船三井客船、つまり三井グループに属する船であることが少しひっかかりました。
ニッカウイスキーが属するのはアサヒビールホールディングス。同社は特段どこのグループというわけではありませんが、過去の資金調達等の関係から実質的に住友グループの一員と見なされるほど深い繋がりがあります。そう、グループが違うんですね。

日常的な宴会から冠婚葬祭において、ビールを見るとグループがわかると言う話は耳にしたことがあると思いますが、それは販売経路にそのまま繋がります。この整理でいくと、三井グループはサッポロかサントリーと言われており。。。山崎、白州ではなく余市が詰められていたことに、些か違和感を感じたという訳です。
もっとも、この手の話は時代によって変わるの。最近の日本丸のレストランや、客室内の冷蔵庫にはアサヒスーパードライが使われていることから、そこまで気にする話じゃないのかもしれません。(あるいは2000年頃の三井グループと住友グループの合併話から、門戸が開かれたか。)

話がだいぶそれてしまいました。そろそろ中身にフォーカスしていきます。
今回のボトルはまさにアメリカンオークの新樽というフレーバーが主体ですが、ただ樽感が濃いだけでなく、熟成によって丸みを帯びている点。その奥には、余市らしい激しく主張しないじっとりとしたスモーキーさと、微かに漁港のような香りがアクセント。そして厚みのある酒質は、オレンジ系の果実の甘酸っぱさを伴う、リッチな樽感のなかに余市らしさが複数のレイヤーとなって合わさった、多彩な味わいが魅力であると言えます。

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(余市10年マイウイスキーの新樽熟成3種。どれも今回の日本丸20周年記念と大差ない色合い、度数構成であるが。。。)

同じ新樽の余市で比較すると、樽感という点では、上記マイウイスキーの余市10年も、今回の日本丸カスク(約20年熟成)と同じくらいの濃さがあります。
ですが、ここまでのバランス、多彩さが感じられたものはありません。勿論このはつらつとした味わいも決して悪くはないのですが。。。このまま10年寝かせてもこうはならない。恐らくそれは熟成期間の違いだけでなく、使われた新樽のサイズが違うのではと推察します。

最近のマイウイスキーや余市では、250リットルの新樽が中心です。しかしこの日本丸は、パンチョンやバットサイズの大型の新樽が使われているのではないか。それ故にじっくりと熟成が進み、約2倍の年月をかけてこの香味にたどり着いたのでは・・・と。
それこそ、ウイスキー不遇の期間を過ごしたからこそ生まれた産物であると共に、その時間がくれた贈り物のようなウイスキーだと感じます。
(画像検索でこのボトルに付属していたメーカーコメントのカードを確認しました。500リットルサイズの新樽が使われてるとのことです。2/25 追記)

なお蒸留は1990年12月22日となっているところ、日本丸の就航は同年9月です。同じ月の原酒って無かったのかなあとか。ひょっとして関係者が1990年に樽買いしていた?いやそれこそ先に触れたグループ違いの話が当時は強かったろうし・・・
これでなんの事情もなく揃えて来なかったなら、ニッカらしいなと思えてしまったりです(笑)。