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PAJARETE 
SOLERA 1851 
A.DE MULLER 
Release in 2013 
750ml 21% 

香り:黒蜜やチョコブラウニーを思わせる濃厚かつ柔らかい甘さ。そこにレーズンやベリー系のドライフルーツ、無花果の甘露煮、杏子ジャム、あるいは黒糖梅酒等の果実を思わせる酸と、胡桃のようなほろ苦さが混ざり合う多層的なアロマ。

味:濃厚でとろりとした口当たり。ダークフルーツをカラメルソースで煮詰めたような、濃縮した甘酸っぱさ。一方でべたつき、しつこさはそこまでなく。その甘酸っぱさの奥からカカオのような苦味、角のとれたウッディさが感じられ、余韻としては必要以上に残らず穏やかに消えていく。

香味の系統としては熟成クリームシェリータイプだが、モスカテルを思わせる酸味も感じられる。角のとれた濃厚な甘酸っぱさを構成する多層的なアロマ。長期熟成マディラワインのようなゾクゾクとさせる高揚感、あるいは陶酔感を伴う仕上がりは、時間の産み出した贈り物。疑いなく素晴らしいデザートワイン。

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パハレテ(あるいはパクサレット)というと、使い古したシェリー樽をリフレッシュする手法に使われた、安価で質の落ちる甘口シェリータイプの酒精強化ワインシェリーサイドはわかりませんが、ウイスキー愛好家の間では特にその認識が強く、名前くらいは聞いたことがある、という人は多いと思います。

ただ、パハレテを用いたシーズニング(浸けておくだけでなく、蒸気圧で樽材に無理矢理注入する手法)は、1988年にウイスキー業界で禁止され。またシェリー側でも消費傾向として甘口ワインの需要が減ったことや、1999年の法改正でパハレテそのものが独立した区分とはならず、マラガワインなどの一部に組み込まれたことなどからブランドとしても衰退。少なくとも、近年の日本市場ではほとんど見られません。

一方で古くは19世紀、甘口のデザートワインが流行した中でパハレテも純粋に飲み物としてシェアを獲得しており、特にこの時代のものは、熟成を前提とする高品質なデザートワインだったという説があります。
もちろん、様々なグレードがあったと思われ、特に20世紀に入ると、我々が聞くような安価なバルクワインや、果ては輸入したブドウを乾燥させて仕込んだワインに工業用アルコールで酒精強化したような、どうにもクオリティの低いものが登場してくるようです。
安価で濃厚で・・・使い勝手が良かったのでしょう。ウイスキー業界で活用されるようになると、シェリー樽のシーズニングだけでなく、ウイスキーにも直接添加されるようになります。

参考①:Whisky science "Pajarete and Wine treatment"

参考②:シェリー樽の長い旅

ではパハレテはどういう味だったのか。モノとしては、オロロソやPXにシェリーベースの葡萄シロップ、あるいはカラメルを混ぜた、甘口タイプの酒精強化ワインとされ・・・レシピの上では、クリームシェリーに近いものと考えられます。
ウイスキーのオールドボトルの風味に少なからず影響を与えたワイン。。。勉強を兼ねて、可能であれば当時のものになるべく近いものを飲んでみたい。そう考えていたところ、思わぬ出物を見つけて買い付けたという訳です。


今回の1本は、1851年創業のワイナリー「A.DE MULLER(デ ムリエール)」が、創業年に組んだソレラから払い出した長期熟成品。同ワイナリーの酒精強化ワインは、過去に信濃屋がプライベートリリースを行ったこともあるため、記憶にある方がいらっしゃるかもしれません。
平均熟成年数等は不明ですが、現地情報を調べると継続してリリースされているモノではなく、2010年頃の限定品だった模様。
先に述べたように1800年代は甘口デザートワインが人気だった時期です。そこでソレラを組んでリリースを始め、その後消費低迷や法改正等を受けて大量に払いだされることはなく。残された原酒の熟成がひっそりと続いていた。。。とすれば、平均熟成年数はかなり長熟になるのではないかと思います。

また1851年というと、含まれている原酒の最長は約160年にもなり、マディラも顔負けな熟成期間。加えて、1878年から始まるフィロキセラ災禍の前の仕込みともなります。メーカー情報では、主な品種はモスカテルとグルナッシュとのことですが、1世紀以上前の情報がどれだけ正確に残ってるかは、良い意味でも悪い意味でもいい加減な国スペイン故に不明。フィロキセラによって絶滅してしまったブドウ品種も、少量ながら含まれているかもしれないというロマンがあります。

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(今回のワインにも感じられた、ノージングで思わず鳥肌がたってしまうような陶酔感を含む熟成香は、長期熟成のマディラ等にも共通する要素。この感覚をどう伝えたら良いか表現が悩ましくあるとともに、いったいなにがこの香味を作り上げているのか・・・、まさに熟成の神秘。)

飲んだ印象としては、濃厚な甘さはあるものの、単にベタ甘いだけでなく長期熟成を感じさせる角のとれた酸味やオーク由来のウッディさ、香味を構成するレイヤーが多彩。質の悪いシェリーとは思えないクオリティが感じられます。何より、上記でも触れた熟成由来と思われる、陶酔感を感じさせるアロマが素晴らしい。先に書いた、19世紀のパハレテが高品質なデザートワインだったという話も、今回のボトルを飲む限り違和感はありません。
現行品のメーカーハイエンドな長熟甘口シェリーと比較しても、遜色ない出来に驚かされました。

開封直後は少し篭ったような感じもありましたが、1週間程度でもう全開。癒しと幸せを感じるナイトキャップです。
パーカーポイント96点、海外レビュアーの評価には「笑顔で死ぬことを可能にする酒」という最高級にぶっとんだ評価。貴重なボトルとの巡り合わせに感謝しつつ、次は葉巻と合わせてゆったりと楽しみたいと思います。