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ARDBEG 
DRUM 
Rum Cask Finish 
LIMITED EDITION 2019
700ml 46%

グラス:テイスティンググラス
時期:開封後数日以内
場所:新宿ウイスキーサロン
暫定評価:★★★★★★(6)

香り:ピーティーでスモーキー、焦げた木材、魚介の塩漬けや磯っぽさなどの島系の要素をしっかりと含んだアロマだが、全体的に丸みがあり、奥には杏やパイナップルジャムのような甘みも感じられる。

味:香り同様の構成。序盤はややエステリーでドライな口当たりだが、ピートの焦げたようなほろ苦さと塩気、磯っぽさが口内から鼻腔に届く。そこから徐々に黄色フルーツのジャムのような粘性を伴う甘味が余韻にかけて広がっていき、スモーキーでカカオのような苦味と共に長いフィニッシュへと繋がる。

10~12年前後の熟成と思われるスタンダードなアードベッグを、黄色い果実のジャムのような粘性のある甘味が、作為的にならない程度にコーティングしている。作り手のノウハウが活かされたような後熟具合。
ハイボールにしても香味がそのまま延びるようで崩れない。このバランスの良さは限定品としてではなく、通常品として日常的にも楽しみたいアードベッグ。

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毎年恒例、アードベッグデー向けにリリースされる限定品。2019年はラムカスクフィニッシュのアードベッグです。
「そうそう、こういうので良いんだよ」
飲んで一番最初に思い浮かんだ感想が、この一言でした。

2015年の蒸留所創業200周年記念を除くと、これまでの3年間のリリースは、
2016年:ダークコーヴ(ダークシェリーカスク原酒)
2017年:ケルピー(ヴァージンオークカスク原酒)
2018年:グルーヴス(ヘビーリチャー・ワインカスク原酒)
と、通常のオフィシャル10年と同様のバーボン樽熟成原酒をベースとしつつ、そこに何らかの樽由来の強烈な個性を持った原酒をブレンドする方向で仕上げられていました。

2016年のダークコーヴは、バーボン樽とシェリー樽(恐らくPXに類するもの)の組み合わせという元々実績のあるもので、まだなんとか・・・でしたが、ケルピー、グルーヴスはお祭り気分で悪ノリしてしまったのか、新樽、ワインのヘビーチャー、樽由来のネガな部分が出やすいチャレンジングなものが使われたこともあり、元々の味わいともあまりマッチしていない。限定品として1回楽しむなら良いけれど、定番品として飲みたいかと言われたら答えはノーでした。

一方、今回のアードベッグ ドラムですが、ベースとなる原酒とフィニッシュで使われたラム樽由来の風味のバランスが、ここ数年で一番と言えるレベルにまとまっています。
強くピーティーで島要素もたっぷり含んだ現行アードベッグのハウススタイルは、完成度こそ高いものの主張の強さから飲み疲れることもしばしば。そうした個性をラム樽由来のジャムような粘性と濃度のある甘酸っぱさがコーティング。イメージは、男性的なスタイルのアードベッグと、南国衣装に身を包んだ女性的なラムが手を取り合って踊るような・・・なんとも楽しい気分で飲み進めることが出来ました。

天国を知るためには、地獄を知っておかなければならない。
例えが些か過剰とは思いますが、アードベッグ・ドラムの向こうに南国が見えたのは、きっとこれまでのリリースの影響も少なからずあったのでしょう。


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(今年のテーマはカーニバル。確かに楽しくなる味わいだった。上記経緯から期待していなかったものの、良い意味で裏切られた愛好家は少なくなかった模様。)

これまでの3作は強烈な個性を持った原酒を新たに作って、バーボン樽熟成の原酒にブレンドする方法をとっていましたが、今年からフィニッシュに手法を切り替えたのも、仕上がりの違い、全体的な熟成感の向上に繋がっているのかもしれません。

フィニッシュに使われたラム樽は、アメリカで作られるラムの空き樽とのことですが、ディアジオ繋がりだとキャプテンモルガン(アメリカ・ヴァージン諸島)でしょうか。
仮にそうだとすると、主たるところはアメリカンオークです。ベースのバーボン樽原酒とは樽材が共通であり、ラムの風味も甘味とフルーティーさですから、それぞれ共通項が架け橋になって最終的な香味のまとまりの良さ、ハイボールにした時の伸びの良さに繋がったのではと考えています。

アードベッグドラムは、過去のリリース同様アードベッグ・コミッティ向けにカスクストレングスもリリースされています。
加水仕様が予想外に良かっただけに、これはコミッティ向けも是非飲んでおきたいですね。