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HARVEYS 
BRISTOL CREAM 
CHOICEST OLD FULL PALE SHERRY 
1960-1970's 
750ml About 20% 

かつてイギリスにおいて、スウィートシェリーのスタンダードと言われるほど、高いシェアを誇ったハーベイ社のクリームシェリーが「ブリストル・クリーム」です。

需要に対応するため、1980年代までイギリスのブリストル(またはその郊外)に製造工場があったほど。当時の物流では、生産地に瓶詰工場があるより消費地に生産拠点があった方が効率的だったのでしょう。結果、スペインの提携ボデガから多くのシェリー酒がイギリスに送られることとなり、輸送用、一時保管用のシェリー樽も必然的にイギリス国内に増えることとなります。

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1960年代はイギリスでのシェリー酒の消費が増加、その後1980年代の衰退とECによる原産地呼称制度の制定に伴うスペインへの工場移転。このハーベイ社がイギリスでシェリー酒を製造していた時期は、スコッチウイスキーのなかでも特にGM社などボトラーズにおける色濃いシェリー樽熟成ウイスキーの仕込みが多かった時期とリンクしています。

シェリー樽についてほぼ同じ時期にパハレテ説があり、これも行われていたと思いますが、ベースとなる樽がなければパハレテは成立しません。果たしてこれは単なる偶然でしょうか。同社がGMないし各蒸留所と樽の供給に関する契約を締結していたかは定かではないものの、少なくとも製造課程でイギリスに置いていた"シェリー樽"が、スコッチウイスキー業界に貢献していたことは間違いないと考えられます。
ちなみにこの樽材がスパニッシュオークか、アメリカンオークかはさらに議論が別れますが、自分は後述するようにボデガが「どうせなら廃棄前の古樽使え」で、わざわざ新しい樽を作らず、アメリカンオークの古樽を使ったと考えている派です。(スパニッシュもあったのだと思いますが、後年良質なシェリー樽と認識されたのは、アメリカンオークの古樽という認識。)

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(通称GMシェリーとして知られる、カラメルソースを混ぜたような甘みをもった特徴的なリリースは、60年代頃から多く、1980年代後半蒸留頃から姿を消す。かつてはストラスアイラ、モートラック、グレングラント、ロングモーン、マクファイルズ。。。多くのGM蒸留所ラベルや独自リリースがこの味わいを持っていた。)

今回のテイスティングアイテムは、スペインで作られた各原酒がイギリスでブレンドされていた、まさにその当時の流通品です。ラベル下部に書かれた「12 DENMARK STREET BRISTOL ENGLAND」は、かつて拠点を置いていたオフィスの名残であり、時代を象徴する記述と言えます。

クリームシェリーはオロロソシェリーとPXシェリーをブレンドして作られるのが一般的です。しかしその品質はピンキリ。当時は「品質の定かではない原酒をイギリスが大量に輸入していた」なんて説もある時代でもあり、特にスタンダード品は、明らかに色が薄く熟成した原酒が使われていないように感じるものも少なくありません。
一方、このブリストル・クリームの色合いは熟成を感じさせる濃さがあります。経年により若干濁りはあるものの、当時は淀みのない赤みを帯びた美しい褐色だったことでしょう。香味は甘酸っぱくダークフルーツの香味が豊かで、アーモンドクリームのような軽い香ばしさと甘み、若干のシイタケっぽさ。樽由来のタンニン、コクのある甘みはしっかりと熟成したオロロソとPXをブレンドしていることが伺えます。

ここ最近、有名どころのクリームシェリーのオールドをぼちぼち飲んできましたが、スタンダードでこのレベルは頭一つ抜けています。(もちろん、30年オーバー等の長期熟成クリームシェリーと比べると多少粗はありますが。)
1960年代に色濃いシェリー樽熟成のウイスキーが多い背景は、第二次世界大戦とその後の消費量低迷のなかで溜め込んでいたソレラの古酒を、輸送用に使う古樽とともに各ボデガが払いだしたからではないかというのが自分の考察の一つです。
シェリー樽の謎に明確な正解を紐解くことは恐らく出来ず、仮説に状況証拠を結び付け、どれだけ納得できる説が出来るかだと思います。今回のボトルのようにスタンダードでありながらクオリティの高いものを飲んでしまうと、長熟原酒の払い出しとともに一部メーカーが良い樽を確保していたという範囲で、その予想を裏付けているように感じてしまいます。


何の気なしに購入してみたボトルでしたが、思った以上に美味しく、そして背景情報の多いものでした。
このボトルは先日とあるテイスティング意見交換会の際、新宿ウイスキーサロンに寄贈しました。興味がある方は、同店でくりりんが置いて行ったシェリーを注文すると・・・何本かあるうちの1本が出てくるかもしれません。興味がある方はどうぞ!