若鶴酒造 三郎丸蒸留所 ニューポット 2018 CF結果追跡その2
今から2年前、クラウドファンディングで蒸留所改修計画を打ち出し、新たな設備を導入して再稼働した若鶴酒造、三郎丸蒸留所。プロジェクトリーダーにして、後に蒸留所のマネージャーとなる稲垣さんの人柄とプランに惹かれ、改修工事前から当ブログでも応援させていただきました。
その後、想定した通りの原酒ができているのか、プロジェクトはちゃんと形になったのか。昨年、そして今年も稼働中の三郎丸蒸留所を見学し、仕込んだばかりの原酒を確認していました。
結論から言うと、素晴らしい可能性を秘めた原酒が産まれており、一部の愛好家が持っていたであろう若鶴酒造への評価を、改める時が来たと言っても過言ではありません。
今回は今年見学した蒸留所の状況と、進化した原酒のテイスティングをまとめます。
SABUROMARU
NEW POT
Heavily Peated
Distilled 2018
200ml 60%
香り:香ばしく乾燥した麦、木材や藁を焦がしたようなピーティーさ、少し粘土質の土っぽさを伴う。時間経過でスモーキーさの奥に微かな乳酸、イーストを思わせるニュアンスも。
味:とろりとした口当たりと柑橘を思わせる酸味、香ばしい麦芽風味。時間差で香りで感じた焦がしたようなスモーキーさが口内に広がる。
余韻はヒリヒリとしたアタックもあるが、合わせて麦の甘みが舌の上に残り、ほろ苦くピーティーで長く続く。
発酵したようなニュアンスや若さ故のネガは目立たず、余計な雑味も少ない。それでいてしっかりと重みのある酒質である。ピートは内陸系が主体か、ヨードなどの海系の要素は見られない。また余韻に酒質由来の甘みが残り、ピートに負けない強さもあることから、短熟から長期熟成までをカバーするであろう優れたニューメイク。
NEW POT
Heavily Peated
Distilled 2018
200ml 60%
香り:香ばしく乾燥した麦、木材や藁を焦がしたようなピーティーさ、少し粘土質の土っぽさを伴う。時間経過でスモーキーさの奥に微かな乳酸、イーストを思わせるニュアンスも。
味:とろりとした口当たりと柑橘を思わせる酸味、香ばしい麦芽風味。時間差で香りで感じた焦がしたようなスモーキーさが口内に広がる。
余韻はヒリヒリとしたアタックもあるが、合わせて麦の甘みが舌の上に残り、ほろ苦くピーティーで長く続く。
発酵したようなニュアンスや若さ故のネガは目立たず、余計な雑味も少ない。それでいてしっかりと重みのある酒質である。ピートは内陸系が主体か、ヨードなどの海系の要素は見られない。また余韻に酒質由来の甘みが残り、ピートに負けない強さもあることから、短熟から長期熟成までをカバーするであろう優れたニューメイク。
三郎丸蒸留所の原酒に関する特徴は大きく2点。まず一つは50PPMという、アードベッグやキルホーマンクラスのヘビーピート麦芽が用いられていること。
そして写真の日本に二つとない、独特な形状のポットスチルで蒸留されていることにあります。
このスチルはボディの部分がステンレスで、ネックから先が銅製というもの。また、ラインアームに該当する部分が非常に短く、折れ曲がった先ほんの1m少々で冷却機(写真で水滴が付いている部分)というのも三郎丸独自の構造です。
ステンレスは触媒反応がないため、蒸留の際、原酒にオフフレーバーが残るというのが定説にあります。しかし最も反応が起こるのは気化した後であり、その部分を銅化することで、通常のスチルと殆ど違わない効果が得られている模様。
また、現時点ではポットスチルが1基しかないため、1つのスチルで日を分けて初留と再留を行なっているのも特徴と言えます。
そして設備改修初年度の時点で、他のクラフトに無い重みのある原酒が産まれ、荒削りながら可能性を感じていたところ。
今年はマッシュタンを新調して最適な糖化ができるようになったことと、前年の経験を活かしてミドルカットなどの調整を行った結果、酒質の重みや厚みはそのまま、より麦芽の甘みとピートのしっかり乗ったニューメイクが出来上がったのです。
(2018年から導入した三宅製作所製のマッシュタン。以前は密造時代のようなタンクを使っていたが、このマッシュタンの導入で麦芽の粉砕比率から、糖化の温度などの各種コントロールが可能となり、酒質が格段に向上した。)
(蒸留されたばかりのニューメイクの出来を確認する稲垣マネージャー。蒸留直後は60%後半、60〜63%に加水して樽詰めする。この時点のニューメイクもまた、フレッシュなピーティーさが際立っており、加水するのが勿体無いとも感じる。)
(三郎丸蒸留所の熟成庫。左側の壁の向こうには蒸留器などの設備があり、同じ建物の中で区分けされたスペース。比率はバーボン樽を中心に、シェリーやワイン樽なども。この他空調の入った冷温の貯蔵庫があり、熟成環境の違いとして他のクラフトにはない恩恵をもたらしている。)
これまで日本で操業する蒸留所、全てのニューメイクを飲めているわけではありませんが、少なくとも昨年までに稼働したクラフト蒸留所の原酒で、一番可能性を感じたのは三郎丸蒸留所というのが、今年のそれを飲んでの偽りない感想です。
また、自分以外の飲み手がどのように感じるか、2組の持ち寄り会に試供品のニューメイクを出してみたところ、どちらも評判は上々。
1組には「スコッチのニューポット」と言って出し、帰ってきた答えは「ラガヴーリン」。
もう1組では三郎丸として出しましたが、「こんな綺麗で美味いニューポット、あの若鶴とは思えない」、「1樽欲しい、このグループで買おう」という評価。
かつて若鶴酒造では、地ウイスキーと言えば聞こえはいいものの、決して高いとは言えない質のウイスキーを生産・販売しており、愛好家の評価も相応のものが形成されていました。それこそ上記の「あの若鶴とは思えない」という言葉が、その当時の評価を代弁していると言えます。
しかし一連の改修工事と、稲垣マネージャーを中心に行われたトライ&エラーの結果が結実し、ついに我々もその評価を改める時が来たのです。
蒸留所の見学は勿論、機会があれば是非ニューメイクをテイスティングして欲しいですね。今週末のウィスキーフェス2018でも提供があるそうです。
(ウイスキーの作業場は1F。関連展示、蒸留行程見学は2Fから1Fのウェアハウスを見る流れ。各種導線は洗練されており、クラウドファンディングの成果を受けて、しっかりと設計、改修されたことが伺える。)
(三郎丸蒸留所外観。今年創業100周年を迎えた若鶴酒造の歴史と、改修による新しさも併せ持つ造りである。見学は1日3枠までで、同社WEBから要事前予約。)
今年の6月、若鶴酒造の親会社であるGRNが、洋酒等輸入販売の国内主要企業であるリラックスとウィックの子会社化を発表。次の100年に向けた体制強化として、驚きの一手を打ってきました。
そしてこのニューメイク。若鶴酒造でのウイスキーの仕込みは7月から9月の夏場のみで、今年の仕込みはすでに終了していますが、次のシーズンに向けて新たなアイディアが複数ある模様。どのような形でウイスキーづくりに反映されるのか、興味は尽きません。
少なくとも、初年度に蒸留した原酒の熟成経過から新たなフィードバックもあるでしょうし、今年の驚きを越えて、より洗練されたウイスキーが産まれていくこと期待したいです。
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