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前回に引き続き、2016年に飲んだウイスキーを振り返る特集記事。今回は、オフィシャルリリースでエントリーグレードとなる5000~6000円クラスまでを上限として、ニューリリースの中でコスパが良いモノや、これまでと比較して味わいに良い変化が見られたボトルなどを"Interesting Release Category"としてリストアップします。

ニューリリースはともかく、これまでと比較して・・・というのは何を意味するかというと、ウイスキーは同じ味に作られているようで、ロットで結構味が変わったりします。
このブログを閲覧されている方なら、何を今更という前置きかもしれませんが、ラベルチェンジなどを挟んだ場合はほぼ確実に変わりますし、そうでなくても突然変化することもしばしば・・・。
それはいい方向にも悪い方向にも変化することが起こり得るのですが、ここ最近はいい方向に変化しているボトルが増えてきたように思います。
私を含め、ある程度突っ込んでウイスキーを飲んでいると、オフィシャルスタンダードは中々手が出なかったりしますが、1年に1度くらいそうしたボトルをチェックすると、また新しい発見が見つかるかもしれません。
今回はそんなボトルも含めて紹介していきます。


【Interesting Release Category】
【アイラモルト】

・ボウモア 12年 43%

あえて1本上げるならいつの間にか美味しくなっていたボウモア12年、らしい柑橘とグレープフルーツを思わせるフルーティーな味わいが2〜3年前のロットと比べてはっきりと感じられました。
またそれ以外にも、ここ1〜2年間のアイラモルトの品質向上は著しいと感じます。
去年はカリラ12年が美味しくなったと話題を呼び、今年は今年でアードベッグTEN、ラガヴーリン16年も良くなっていると感じました。この2銘柄は、中途半端な旧ボトルなら、好み次第で充分対抗出来るクオリティがあります。
またラフロイグ10年は向けで結構味が変わっているような気がしますが、相変わらずの安定感。特にドイツ向けの評判が良かったようです。


【アイランズモルト】
・アラン 12年 カスクストレングス

アイランズのスタンダード全体を見ると、アイラと異なりやや厳しい1年だったように思います。
ニューリリースでは、タリスカーはNAとなるスカイが展開され始めましたが、これはハイボールには使いやすいものの、ストレートは少々苦しい。スキャパのスキレンは年始に流通したバッチ1こそ好調だったものの、バッチを重ねるごとに熟成感がライトに・・・。
既存リリースを見ても、ハイパやジュラは良くも悪くも安定していますが、目立った変化はなかったように思います。
そんな中、エントリーグレードから全般的に安定したリリースで気を吐くアイルオブアラン。1本を選ぶならラベルチェンジした10年か、バッチ的には2015になりますが12年カスクストレングス。アメリカンオーク由来のバニラやドライフルーツの香味がしっかり感じられ、もっと評価されるべき1本をだと思います。


【キャンベルタウンモルト】
・キルケラン(グレンガイル) 12年 46%

スタンダードクラスの中で、今年のベストリリースを選ぶなら、このキルケラン12年は間違いなく候補となる1本です。
ちょうどキャンベルタウンモルトを基礎から勉強し直すかと、色々飲んでいた中で、手元に届いたWIP終了を告げる完成品。しっかりとした麦芽風味、後半に広がるピートフレーバー。兄貴分であるスプリングバンクの特徴を備えつつ、スタンダードではそれ以上の出来栄えでした。
蒸留所限定品の複数年バッティングを飲む限り今年1年限りの味わいではなさそうですし、来年以降も期待しています。


【ハイランドモルト】
・クライヌリッシュ14年 46%

ハイランドもニューリリース含め、中々良いボトルが複数ありましたが、1番驚きと変化があったのはこのクライヌリッシュの2015〜2016年近辺ロット。
これまでドライで ライトで・・・などと言われていたクライヌリッシュのスタンダードですが、ふと気がつけばリッチでコクのある、食前酒ではなく食後酒というキャラクターに。ハイボール向きではなくなったように思いますが、ボトラーズなどにもあるクライヌリッシュらしいワクシーで白粉を思わせる麦芽風味がしっかり感じられる、良いスタンダードボトルになったなと感じています。


【スペイサイドモルト】
・グレングラント12年 43% 2016's

アイラモルトが既存ラインナップなら、スペイサイドはニューリリースで光るボトルが多く見られた、収穫の多い1年間だったと思います。
その中で1本を選ぶなら、最近ようやく国内に流通し始めたグレングラントのニューリリース12年。ボディはライト寄りですが、華やかなオークフレーバーがしっかりと広がる、少なくとも終売になってしまった16年を惜しまなくても済みそうです。
また、この他にもグレンリベット12年ファーストフィル(写真)もグラント同様に華やかなタイプでいい出来ですし、ラインナップではミドルグレードながら価格的にエントリーに位置するノッカンドゥー15年、18年もナイスコストパフォーマンス。
また、グレンフィデック12年も今年のラベルチェンジで味が良くなったと評判です。


【ローランド付近のモルト】
・インチマリン(ロッホローモンド) 12年 46%

ロッホローモンドはハイランドとローランドの境界線付近にあるけど、厳密には南ハイランドだろうってそうですごめんなさい(笑)。
ただここでラインナップに入れないと、ローランド地方は該当なしどころか、あんまり飲んでないことがバレちゃう事態に。(オフィシャルはキンチーとアイルサベイくらいしか飲んでない可能性が・・・。)
というわけで、今年発売したニューボトルで一気にボトラーズリトルミルやアイリッシュ系統のキャッチーなフルーティーさを取り戻し、JIS向けシングルカスクで話題となったインチマリンの12年をリストアップ。これ、良く出来てると思いますよ。
ローランド地方の探求は、来年の宿題とさせてください(汗)。

【ジャパニーズモルト】
・余市NA 45%

2016年のジャパニーズのスタンダードクラスは中々寂しい感じでした。クラフトディスティラリー創業のニュースや、既存蒸留場からリリースされる限定品が時折市場を賑わしてくれましたが・・・。
ボトルではなく、ジャパニーズウイスキーの基準の話が盛り上がっちゃったりで、色々落ち着かない1年だったように思います。
そんなわけで「該当なし」でもよかったのですが、昨年リリースされてあまり評価されていなかった余市NAが、地味に味が変わって樽感が濃くなっていたので、リストアップです。
先日、イベントでのブースで試飲したところ、なんか濃くなったなと感じて営業の方にそう告げると、自分も飲んだ当時の試飲サンプルを持って来てくださり、一緒に比較テイスティング。「やっぱり濃くなってる」ということで、劇的な変化ではありませんが、ニッカも影で色々努力しているんだなと感じた出来事でした。


【ブレンデッドウイスキー(モルト含む)】
ブラックニッカ ブレンダーズスピリット 40%

はい、もうお約束です。多くを述べる必要はないですよね。ニッカブレンダー陣の気合いと本気を見た、ブレンダーズスピリットです。
この価格帯でスコッチまで見るとジョニーウォーカーグリーンが再販するなど、リリースはありましたが、個人的な好みやコスパではニッカに軍配です。
サンプルを頂いた後、自分も1本買って飲みましたが、ブラックニッカらしく飲むシーンを選ばない「普段飲み」というバランスに、決して安ウイスキーとは言わせない多彩なアロマ、余韻にかけて広がる余市10年を思わせるピートフレーバーとほのかな硫黄がなんとも懐かしい。来年以降も、定期的にこうしたリリースを出して欲しいです。
そういえば某BAR経由での情報によると、使われた1956年の余市原酒は1樽分だそうです。


以上、長くなってしまいましたが、2016年の振り返りとして、飲んだ銘柄から高評価だったもの、印象に残ったものをいくつかの整理の中でまとめてみました。
今年は意識してオフィシャルを多めに飲みましたが、2000年代の蒸留は突き抜けて良いとは流石に言えないものの、酒質、樽の使い方、全体的なバランスなど、良くなっているなという将来の光明となる発見が結構ありました。

そうした発見のモトはありながら、今回の上下2編のまとめ記事ではボトラーズの主戦場である1〜2円台の価格帯リリースなど、設定条件の関係から触れることの出来なかったボトルも数多くあります。
また、将来への光明とはあまり関係はないですが、当ブログのウリとも言えるオールドブレンデッドも。。。
次は違う条件でまとめてみるかと反省しつつ、そして来年も新しい発見と喜びがある事を期待して、今回の記事の結びとします。