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SASANOKAWA 
963 
Fine Blended Whisky 
Aged 21 Years 
58.0% 700ml 

グラス:SK2
量:30ml以上
場所:自宅
時期:開封後1週間程度
評価:★★★★★★(5→6) 
(口開け直後は★5)

香り:焦げたキャラメルのようなビターな香り立ち、栗の渋皮煮、木材のえぐみ。はじめはトゲトゲした樽材のニュアンスからニスのようなアロマ、日本家屋を思わせる香りが感じられたが、時間経過で馴染み、バーボンオークのようなバニラ系の甘みに変わっていく。

味:パワフルでエッジの立ったウッディネスとスパイシーな口当たり。香り同様にチャーオークの焦げた苦味、黒砂糖や甘栗を思わせる甘み。中間から後半にかけてはモルティーな華やかさ、かすかな酸味。
余韻は焦げたオーク材の苦味、キャラメリゼ、ジンジンとした刺激が収まっていく中で、すっきりと消えていく。


NA、8年とリリースされてきた企画・福島県南酒販、製造・笹の川酒造のブレンデッドウイスキー。次は16年くらいかなー、なんて思っていたら、すっ飛ばして21年が発売されました。
同社の山口氏いわく、今回のリリースは963シリーズの集大成とのこと。これまでの2作品とは違う外箱の高級感あるデザインに、メーカーの思い入れを感じます。
この「963」のロゴや外装は地元のデザイナーによる作品だという話を以前伺いましたが、海外の評判も良いようで、リリースを聞きつけた愛好者やコレクターからの問い合わせが増えているのだとか。


さて、ラベルや箱の話はこれくらいにして、最も重要な中身の話に移ります。
この963は内外含め様々な原酒を調達して作っているブレンデッド。今回のブレンドには21年以上熟成された原酒が使われているわけですが、笹の川酒造は新興のクラフトディスティラリーではなく、1990年代まで蒸留を行っていたことや、酒造としてウイスキー販売の歴史があるため、その原酒については色々と可能性が考えられます。 

例えば同社がかつて自社蒸留をしていた頃の原酒の残りであるとか、あるいはチェリーウイスキーなどを製造するために国内外から買い付けていた原酒を、自社で貯蔵していたものの一部とか。
さらに同社は後述するイチローズモルトとの関係もあり、集大成という位置づけから、あの蒸留所の原酒ではないか・・・とかですね。
見えないことで、逆に意識してしまう歴史とロマンがあります。

飲んだ印象では、使われている原酒の傾向はピート控えめのハイランドタイプ。スコットランド問わず、日本でも多く生産されているタイプで、ボディはミディアム程度、熟成感は年数なり、原酒の個性はそこまで強くなさそうです。
そこに樽由来のほろ苦さ、バーボン的な甘み、長い熟成では消えてしまう焦げたニュアンスが感じられることから、マリッジの際に使った樽が、リチャーされていたモノだったとかでしょうか。
 
樽のが強いので肝心の原酒は絞りづらいですが、以前リリースされた963ブレンデッドモルト8年がスコットランド的なキャラクターだったのに対し、21年はジャパニーズのローカルな蒸留所を思わせる仕上がりだなと感じます。

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ストレート以外の飲み方では、少量加水することで樽感とのバランスがとれ、伸びるというよりテイスティングの幅が広がる印象。宅飲み以外に、BAR飲みの場合でも試してほしいです。
グラスは写真に写っている木村硝子のような卵型ではなく、口径が広いチューリップ型のSK2の方が良い部分を感じやすいです。

ハイボールは爽やか系で、ゴクゴク飲めて可もなく不可もなく。
ロックは最初甘みが薄くなって樽材や干し藁を思わせるえぐみと乾いた植物感、氷が溶けてくるとスパイシーな刺激が和らぎ、薄めたメープルシロップ。
氷や水に負けない味わいが長く続くのが、このウイスキーの魅力と感じます。


さて、先にも触れましたが、笹の川酒造はイチローズモルトの設立において、東亜酒造からの羽生蒸留所の原酒買取と、一部銘柄の販売という非常に大きな役割を果たしたことで有名です。
その後秩父蒸留所の設立に伴い、笹の川酒造が買い取った原酒は秩父蒸留所に移された・・・という話ですが、実は笹の川の安積蒸留所貯蔵庫には羽生蒸留所の樽が残っているのではないかと言うウワサがあります。
今回のリリースに使われたかどうかはともかく、樽の有無については以前蒸留所を見学した際に確認してきました。
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見事にありました、イチローズモルトの刻印付きの樽が(笑)。
蒸留所を案内してくださった山口社長に聞いても、確かに樽は残っているという話で、ウワサは本当だったということになります。

963シリーズは、今後新しい方針でのリリースも含めて色々検討されているようです。
安積蒸留所で作られる原酒も面白い試みをされているようですし、元市民の一人として地元企業のさらなる活躍に期待しています!