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3月22日、キリンから富士山麓、樽熟原酒50% 700ml(通称、新富士)が発売されました。
合わせて、これまで販売していた同社の看板商品である富士山麓 樽熟 50% 600mlを終売。原酒構成を変更し、仕様もノンチルフィルターを採用して、容量は700mlになったけどほんのちょっと値上げもして、同社の新たな顔として打ち出してきたわけです。


富士山麓は低価格帯商品の中では珍しい50%のハイプルーフ仕様を採用した個性的な商品であり、デイリーウイスキーとして愛飲されていた方も多かったと思います。
その商品が香味をより多く残し原酒の味わいに近づける、ノンチルフィルター仕様となってリニューアル。ジャパニーズウイスキーブームの中で、どの程度のモノを打ち出してくるのか、非常に興味がありました。 

富士山麓 樽熟原酒 単品でのレビューはこちら(3/28追加)
http://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1054717006.html

今回は単体の評価をする前に、旧ボトルである富士山麓 樽熟50%と共に、ストレート、少量加水、ロック、ハイボールと一通りの飲み方を試して、変化の程を体感していきます。
テイスティングにあたっては同じ形状のグラスを使用し、合間に口の中をリセットできるパンや白米をつまんで、極力イーブンな条件で比較しました。


 まずはストレートです。使用するグラスは本ブログでお馴染み、グラスファクトリー創吉のテイスティンググラスSK2。左側が新富士、右側が旧富士です。
色はあまり変わらないですね。ほんの少しだけ新富士のほうが濃いでしょうか。香りはどちらも若い原酒らしい香味に加えて、ツンとした溶剤系の刺激。しかし新富士のほうがカラメルを思わせる樽由来の甘味が強く、溶剤系の刺激をカバーしています。また、加水すると甘い香りが前に出てきて、リッチな印象を受けます。
飲んでみると違いは明らか、新富士のほうが味に厚みがありますね。ノンチルフィルターの効果もあるのでしょうが、むしろそれを演出するような原酒構成にした印象もあります。
旧富士は若い刺激に加えてドライ、クリーンな構成で、中間から後半にかけて香味が広がらないのですが、新富士は刺激の後にねっとりとした甘みが舌に乗っかってきて、後半にはバーボン樽というかバーボンそのもののような香味とほのかに焦げた樽の苦みが感じられます。
ブラインドでも試してみましたが、はっきりと違いが感じられました。


 続いてロック。グラスはバカラのローラ、氷はコンビニ購入の標準的なロックアイスをほぼ同量加えています。
新富士はロックが一番良い飲み方かもしれません。香りで感じられた若さ、味で感じた刺激が抑えられ、冷えてもストレートで感じられた甘味が口の中でじわりと開いてきます。旧富士は相変わらずドライで刺激が強め。若い原酒の溶剤系の癖がある香味が、比較して飲み比べるとより強く感じてしまいます。

最後にハイボールですが、これはどちらが良いとは言えない結果でした。
量はお互いに30ml程度に対してメーカー推奨の炭酸比率1:3。グラスは創吉のうす張りタンブラー、氷はロックで使用したものと同様のロックアイスで作成しています。
どちらもスッキリ系で、度数がもともと高いため炭酸に負けないで伸びる点は同じ。その飲み口は、旧富士のほうがすっきりとした中にふわりとエステリーな御殿場らしい香りがあり、ハイボールが旨いとデイリーウイスキー枠で評価されていた理由を改めて感じます。
新旧どちらにも評価すべき要素がありましたが、まあこれなら新富士じゃなくても良いかなと感じたのは意外でした。 
他方で、新富士のメーカー推奨の飲み方は氷を使わない関西式のハイボールのようです。いきなり全部冷凍するのも今後のテイスティングに使いづらくなるので、小瓶に入れて1杯分をスタンバイ、後日評価の際に試してみます。


一通り飲み比べてみましたが、新発売となる富士山麓 樽熟原酒 50%、良くなっていると思います。
あくまで低価格帯ウイスキーという枠の中ではありますが、気合の入った作り。値上げを300円程度(実売1400円前後)にとどめ、ライバル各社の主力商品、ブラックニッカ各種(1200~1300円程度)、角瓶(4月1日から1500円前後)、と比較しても見劣りしないどころか存在感がある、これまでのユーザーも納得の仕上がりだと感じます。
見た目も高級感が出て、肩口に加工された蒸留所名称も良い感じ。しいて言えば、香味の初めにある若いニュアンスを軽減してくれるとさらに嬉しかったのですが・・・。18年も限定ながら再販するみたいですし、新富士が落ち着いた後には、12年や15年をスタンダードラインナップに加えてほしいなと、ささやかに希望しておきます。 

なお、キリンは本商品を積極的に海外展開していく計画も打ち出しており、海外では濃いめの構成が好まれることが多い中、新富士のストレートやロックのリッチな飲み口がどう評価されるか。個人的には同じハイプルーフ仕様のフロムザバレルあたりとライバル争いをするんじゃないかなと、今後の展開も楽しみです。