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とある方から貴重なボトルのテイスティング機会を頂きました。
いや、これまでもかなり多くの方からそういう機会を頂いているのですが、今回は「ブログ用にボトルがあったほうが良いでしょ」って、ボトルごとレンタル。受け取ってみたら未開封ボトルだったというすさまじいオマケ付きで(汗) 。

自分は酒業界と無縁の環境で働いていて、「くりりん」という本名と全然関係ないHNも一応名乗っています。
そんなどこの誰ともわからないヤツでも真剣にやってると、こうして協力してくれる方が出てくるんですよね。
別に自分に協力したところで何が出てくるわけでも無いのに。これ、結構感動的な出来事です。
これまでも多くの愛好家、関係者の皆様から、諸々の終売・ニューリリース情報、在庫情報、テイスティング会への参加・・・本当にいろんな情報・機会を頂いています。
もうなんていうか、感謝しかありません。

雑談が長くなりそうなのでそろそろテイスティングに移ります。今回の更新は、もちろんそのテイスティングの機会を頂いた1本です。


YAMAZAKURA 
Aged 15 Years 
Sherry wood finish 
Cask strength 
Sasanokawa shuzo Japan 
59% 700ml 

評価:★★★★★★(6) 

香り:注ぎたては黒砂糖の香りが感じられるが、すぐにその他のアロマと一体化していく。
アロエのような植物感とシェリー樽のニュアンスを伴う甘い香りとかすかな酸味、ハーブの爽やかさ。 加水すると白葡萄、ハーブが際立つ。

味:注いだ直後は硬さがあり、微かなサルファリーとシェリー樽のニュアンス。様々な樽香やフレーバーがあってばらつきも感じるが、時間を置くとトカイワインのような甘口でとろりとしたテクスチャーに変化。蜂蜜や煮た林檎を思わせるリッチな甘さ、和三盆、ハーブ、中盤からピリピリとしたスパイスと、ほのかなウッディネス。 鼻抜けは品の良い木香、余韻はドライでスパイシー。


今年2月、突如笹の川酒造からリリースされた山桜15年ピュアモルト。このシェリーカスクフィニッシュは、その後続となったギフト向け商品で、某デパートのギフト品としては20本限定で販売されたボトル。(として"は"、ですよ。)
笹の川酒造で蒸留が行われていた当時の原酒がメインで、樽で15年間熟成させた後、タンクで5年以上貯蔵、最後はシェリー樽でフィニッシュ。通常の山桜15年と同じ系譜で、 仕上げが異なる造りです。

当ブログの山桜15年の記事は以下。
 
シェリー樽での熟成期間は不明でしたが、シェリーウッドフィニッシュでこの価格(3万4000円)や、ラベルの色合いなどから、少なくともマッカラン12年くらいの色合いはあるんじゃないか、と思っていました。しかしそんなことは無く、香味のシェリー感も思ったほどはありません。おそらくリフィルシェリー樽を使ったのでしょう。フィニッシュの期間も、あって1~2年程度という印象です。
フィニッシュに使った樽は笹の川酒造が持っている樽とすると、例えば羽生蒸留所の原酒を払いだした後のシェリーカスクを使ったのかなと見ています。

全体の出来としては通常の山桜15年が、バッティングだフィニッシュだで、細いボディにこてこてと香味が乗っていてうるさく感じましたが、こちらはハイプルーフでボディがしっかりしているので、まだまとまりがあります。(相変わらず色々感じる味、地ウイスキーくささはありますがw) 
評価は5か6か迷うところですが、通常のカスクや加水15年よりはまとまってるので6でいきますか。


さて、樽の詳細は、きっと現地在住のウイスキー仲間が調べ上げてくれると思うので(笑)。
ここではフィニッシュに使われた樽が、羽生のリフィルシェリーカスクであると仮定して、羽生蒸留所と笹の川蒸留所にあるエピソードを紹介しようと思います。(休日のパパ業務もあって、この話をまとめるには時間が足りず、日曜まで使ってしまいましたw。 )

笹の川酒造と羽生蒸留所の関係は、多くの方がおおよそご存知のことと思います。
羽生蒸留所の保有者であった日の出みりんが原酒を破棄しようとした際、現イチローズモルトの肥土一郎氏の依頼に応じて一時的に原酒を同社の熟成庫に仮置きしていたという話。この話は少々端折られた部分があって、実際は酒税法の関係で仮置きは出来ず、笹の川酒造が一時的に原酒を買い取ったのだそうです。(肥土氏が退職金などを当てて買い取っているため、結果的には同じことなのでしょうけれど。) 
そのため、イチローズモルト初期の頃のリリースは笹の川酒造を通しての販売となっています。
いくら一時的とはいえ、明日どうなるかもわからない個人の依頼で、あれだけの原酒を買い取ってしまう。また、笹の川は熟成庫というような専用の建物は無く、倉庫の一部が熟成スペースのような形になっているのですが、サイズの大きなシェリー樽を収容するために、ラックの改造までしたとのこと。
なんていうか、笹の川さん男気あふれすぎですね。

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(2012年10月、ウイスキー仲間の黒氏により撮影された、笹の川酒造の熟成スペース。羽生蒸留所のものと思われるシェリー樽。今回使われた樽はひょっとして・・・)

そうした背景もあって、肥土氏は原酒を笹の川から秩父に移動させる際、いくつか樽を笹の川に残していかれたそうです。
笹の川酒造は当時既にウイスキー用のポットスチルは撤去してしまっていましたが、買い付けた原酒などを使ってチェリーをはじめとしたウイスキー製品のリリースは続けていました。そして国内でハイボールブームが起こり、ウイスキーに再び光が当たり始め、焼酎の設備などを流用してウイスキー事業に再度参入をする計画をしていた矢先・・・震災により保有していた関連設備が全てダメになってしまったそうです。
あの震災は、本当に多くのものを我々から奪っていきました。


2015年、笹の川酒造は1765年の設立から250年を数えました。
まさに節目の年、今年こうして様々なリリースがあることは記念の狙いもあるのかもしれません。(実際それにあわせて原酒買い付けの動きもあったようですし。)
そこに羽生の樽を使ったフィニッシュとあれば、上述の背景もあってなんともドラマを感じます。
まぁ正直、このリリースに関しては、ちょっと樽を詰め替えただけでこの価格は無いだろ~っていうか、もうひとつのカスクストレングスが700ml換算でも半額以下なのに、何のコストを載せたんですかという気持ちが無いわけではないので、無理やり納得させてる感もあるのですが(笑)。

ちなみに250周年の節目を迎えた笹の川では、ウイスキー事業参入の計画も検討されているそうです。
FB経由の情報で、まだ話半分レベルですが、次はピーテッド原酒を仕込みたいと。
少なくとも一連の山桜シリーズは笹の川酒造の新時代への狼煙として、同社の名前を再び世の中に知らしめるには、充分すぎる効果があったように感じます。
今後の動き、リリースも楽しみにしています。


追記:この記事は、ボトルを貸していただいたS氏。写真や多くの情報を頂きました黒氏、S氏(ボトルのS氏とは別な方)、W氏など多くの方々からの情報を元に書かせていただいております。重ねて感謝申し上げます。