福島県南酒販 963 AXIS ワールドブレンデッドウイスキー 46%

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963 
AXIS 
WORLD BLENDED WHISKY 
Produced by Fukushima kenan shuhan 
700ml 46% 

評価:★★★★★(5)

香り:プレーンでグレーンのクセの少ない穀物系の甘さ、ほのかに樽香。じわじわと内陸系モルトの酸や甘さを伴うフレッシュなアロマ。

味:口当たりはマイルドで、香り同様癖の少ないグレーン系の甘さが広がる。奥にはモルティーで、複数の樽香。古樽やバーボン樽のウッディネス、熟成した原酒の甘酸っぱさと若い原酒由来の酸味がグレーンベースなブレンドのアクセントとなっている。
余韻はややスパイシー、微かにウッディでほろ苦いフィニッシュがじんわりと続く、

ブレンド比率的にはグレーンウイスキーベースと思しきブレンデッド。ただし安ブレンドに使われるようなスカスカなグレーンではなく、コシの強いバーボンスタイルのグレーンに、同社が保有&熟成させた内陸モルトをブレンドしているのだろう。バランスが良く、若さや癖の少なさは万人向けの飲みやすさに通じている。ストレートはもちろん、ロックやハイボールなど、さまざまな飲み方で楽しむことができる。

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笹の川酒造の関連会社である、福島県南酒販がリリースするウイスキーブランドが、地元福島県郡山市の郵便番号963を銘柄名とした963ブレンデッドウイスキーです。これまで、963のスタンダードラインナップは、エントリーグレードの赤と黒、そしてミドルグレードのAXISとBONDSでしたが、その中でも価格的にボリュームゾーンに位置するAXISが大幅リニューアルしました。

963ブランドの構成原酒は基本的にはイギリスからの輸入原酒ですが、ウイスキー製造免許をもつ笹の川酒造(安積蒸留所)が製造元となることで、原酒のブレンドはもとより、追加熟成や自社蒸留の原酒などを確保した原酒をアレンジすることができる点に強みがあります。
安積蒸留所の熟成庫を見学しに行くと、樽の鏡板に「963」と書かれた樽を見かけることがあります。あれは今後使用するブレンド用に原酒を追熟、アレンジしたりしているためで、聞くところによれば県南酒販専用の熟成庫もあるのだとか。

日本の酒税法免許の整理では、蒸留設備を持ち、ウイスキー製造免許を持っていなければ輸入原酒であっても熟成、ブレンド、加水等のアレンジをすることはできません。
製造元との繋がりがあるからこそできるアレンジ力、原酒の活用が、963ブランドの強みとなっています。

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さて、今回リニューアルしたAXISですが、角瓶形状だったボトルやラベルデザインだけでなく、中身も大きくリニューアルしています。
この角瓶仕様が発売されたのは2019年、今から3年前。ブレンダーや保有原酒の変化もあるのでしょう。
以前のAXISや963関連の低価格帯リリースは、比較的若い内陸系の原酒を追熟させて、日本の温暖な熟成環境にありがちなウッディな樽感が加わったような構成でしたが、今回のAXISはそうした個性は控えめで、全体的にプレーンで癖のない甘みを感じさせる構成です。

その香味からコシの強いヘビータイプのグレーン、BSG(バーボンスタイルグレーン)をベースに、安積蒸留所で追加熟成した原酒をブレンドしてバランス良くまとめているのだと推察します。
グレーンというと安っぽい感じがするかもしれませんが、今の原酒市場においては、同じ価格帯で若くて荒々しいモルトを使われるより遥かにバランスよく仕上がるため、特にこうした晩酌や飲食店等で広く使われる間口の広いブレンドの場合、取りうる選択肢として充分アリだと思います。
下手に若さや個性の強いブレンドは、食事に合わせづらいんですよね。

また、その一方でちゃんと963らしさというか、旧世代のAXISにも通じる樽香も奥に感じられるため、ブランドの継承はされていると言うのもポイントだと思います。
今回のリニューアルでBONDSが休売となり、原酒をAXISに集約していくとのこと。原酒や資材の高騰、色々あるとは思いますが、競争の激しくなってきたウイスキー市場の中で一定のシェアを取れていることでもあり、縁のある地の企業の活躍に明るい気持ちにもなります。

近々ハイエンドブランドの963チェスナットウッドリザーブ25年もリリースされるとのこと。
リリース時期的に今年のウイスキーフェスのブースで提供もあるでしょうから、今回のリリースと合わせて、ブースで色々話を聞いてみたいと思います。

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(地味にグッズが多いのも963ブランドの面白さ。写真のスキットルはアウトドアで重宝しています。)

クロナキルティ ギャレーヘッド シングルモルト 40% (新バッチ 2023.10〜)

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CLONAKILTY 
GALLEY HEAD 
SINGLE MALT IRISH WHISKEY 
Cask type Bourbon Barrel 4 years, Rum Cask finish 
Batch 2023~
700ml 40%

評価:★★★★★★(6)

香り:華やかでオーキーなトップノート。ややドライな香り立ちだが、土や殻付き麦芽を思わせる要素に果実感豊富。洋梨や林檎、マスカット、微かに青瓜やジャスミン。奥から蜂蜜のような粘性を思わせる甘さも感じられる。

味:口当たりは柔らかく適度なコクがあり、麦芽風味から軽やかなスパイシーさと微かな青み。香り同様にしっかりとフルーティーで、黄色や白色の果肉を思わせるフレーバー。余韻は華やかで、ナッツや果実の皮のようなほろ苦さに、塩を数粒舌の上で溶かしたような出汁感を伴う長いフィニッシュ。

想像以上に王道で、想像以上に美味しかったシングルモルト。第一印象はバーボン樽の12年熟成程度のスペイサイドモルトかローランドモルトだが、それだけではない個性が印象的なウイスキーである。長期熟成アイリッシュウイスキーのケミカルトロピカルとは異なるが、麦芽風味と樽由来の豊かな果実風味は万人受けする構成。現代のウイスキー愛好家に広く評価されるだろう。最初の1杯にどうぞ。ハイボールもGOOD。

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アイルランド南部、大西洋沿いにある街、その名を冠したクロナキルティ蒸留所のシングルモルトのスタンダードブランドが、今回のテイスティングアイテムである”GALLEY HEAD”です。
このリリースをご存じの方だと「知ってるギャレーヘッドとラベルが違う?」と思うかもしれませんが、今回の1本は今後市場に流通してくるリニューアル品で、構成原酒の異なるバッチ。個人的に前作より好みの味に仕上がってます。

蒸留所を操業するアトランティック・ディスティラリー社は2016年設立。蒸留所のオープンは2019年3月。
自社蒸留の原酒が充分熟成するまでの間は、同じアイルランドの蒸留所(ブッシュミルズやグレートノーザンなど)から調達した原酒をベースに、後述する海岸沿い高台にある熟成環境でのカスクフィニッシュやブレンドを経たリリースが行われています。

現在市場にある銀色のスタンプ(以下、画像参照)のギャレーヘッドは、バーボン樽で4年間熟成させた原酒を、ワイン樽で数カ月フィニッシュしたもの。軽やかな味わいにワイン樽由来のナッティなフレーバーが合わさって、ハイボールで楽しむにはピッタリなウイスキーでした。
一方で今回リリースされた新しいロットは、バーボン樽で4年以上熟成した原酒をアグリコール・ラムカスクで追熟。華やかでリッチなフルーティーさが好ましく、若さも感じず飲みやすい1本に仕上がっています。

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先日、とあるBARで偶然クロナキルティ蒸留所の関係者、日本エリアマネージャーのフィオナさんとお会いしたことが、今回のレビューの発端でした。
せっかくなのでと、バックバーにあったギャレーヘッド(シルバースタンプ)のハイボールを頂きながら、色々お話を伺ったのですが・・・。お恥ずかしいながら、本ウイスキーについては「見たことある」程度、ハイボールの味もさっぱり系だったしで。。。作り手の熱量に対して「ほんとにほんとぉ~?」みたいな、多分そんな雰囲気を私が出してしまっていたのだと思います。

それじゃあこれを飲んでよと、取り出されたボトルがゴールドスタンプきらめく新ロットのギャレーヘッド。その場で開封、マスターすいません。グラス貸してください。
いや驚きました。シルバーのほうはストレートだと普通だなーという印象でしたが、ゴールドはレビューでも触れたように、想像以上に王道で、想像以上に美味しかったんですよね。
市場流通価格はわかりませんが、聞くところでは現在とそう変わらないとのことで、他社製品とも充分に渡り合える、センスの良さが光る1本だと思います。

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◆クロナキルティ蒸留所について
せっかく色々お話しも伺ったので、ここからはクロナキルティ蒸留所についてざっくり紹介させて頂こうと思います。
同蒸留所は先に触れた通り、2019年3月からクロナキルティの街中で創業、熟成庫は町から約10㎞離れた、海岸そばの高台にあります。
原料となる麦芽もまた同地域にある自社畑で栽培されているものと、周辺の契約農家で栽培されたもののみを使用する、言わばローカルバーレイという原料、環境で造られている特徴があります。

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※クロナキルティ蒸留所の熟成庫。眼前に広がる大西洋からは時折強い海風が吹き付ける。この熟成環境がもたらす個性は、現在のリリースからもその片鱗を感じることが出来る。

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※クロナキルティ・ギャレーヘッドのリリースにおいて、ブランドストーリーにもなっているギャレーヘッド灯台。写真奥の矢印の場所に熟成庫が建てられている。 

このこだわりの背景には、クロナキルティ蒸留所が原料の栽培から、熟成、ボトリングを全て蒸留所のある地域内で行う「GRAIN TO GLASS」をコンセプトに掲げていることがあります。
ただし創業時から蒸留していたのはアイリッシュ伝統のシングルポットスチルウイスキーのみで、シングルモルトは作っていなかったとのこと。
また現在シングルポットスチルウイスキー、またはアイリッシュウイスキー(ブレンデッド)としてリリースされているラインナップも、原酒が充分確保できていないこともあって、そのコンセプトを全て反映したものではありません。

これはこの蒸留所に限らず、新興蒸留所においては大概同じですね。大事なのは、そのコンセプトを継続することなんです。
そして新たなロットとして先日からラベルが切り替わり、日本では2023年11月からリリースされるクロナキルティ・アイリッシュウイスキー、ポートカスクとダブルオーク(以下、左、中央)には、クロナキルティ蒸留所で蒸留され、上記熟成庫で4年以上の熟成を経た原酒が使用されているとのことです。

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また、クロナキルティ蒸留所の原酒を用いた100%シングルポットスチルウイスキーは、2025年のリリースを予定していること。2023年からはシングルモルトウイスキーの蒸留も開始しており、熟成後は今回レビュしたギャレーヘッドにも活用していく予定だそうです。
着実に、理想を形にするための歩みを進めていますね。

蒸留所を立ち上げたメンバーは、熟成庫がある地域のそば、ダーンディディで9世代に渡って農業を営んでいるスカリー家。今回紹介した「ギャレーヘッド」は半島の先端にある、この地域の象徴とも言える灯台をブランド名に採用したものであり、クロナキルティ蒸留所にとってのスタンダードブランドの一つとなっています。
今はまだワークインプログレスなクロナキルティ蒸留所ですが、この成長過程を楽しめるのが新興クラフトの面白さ。
酒販メーカーからも期待している蒸留所の一つとして名前を聞きますし、今回のギャレーヘッドも市場のニーズを満たす味作りに光るものを感じます。今後のリリースが楽しみです!

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※ダーンディディで蒸留所創業者一族が耕作する大麦畑と収穫風景。シングルモルトのリリースが待ち遠しい。

シングルモルト 三郎丸 2019-2023 The Ultimate Peat 61% 特装版

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SABUROMARU 
The Ultimate Peat 
Single Malt Japanese Whisky 
Distilled 2019 
Bottled 2023 
Cask type Bourbon Barrel #190093 
700ml 61% 

評価:★★★★★★(6)

香り:スモーキーでビター、和柑橘を思わせるアロマに微かに根菜や発酵香、焦げた木材や藁、灰のような香りも混ざる。スワリングするとオレンジピールやキャラメル、ほのかなオーク香。

味:甘酸っぱくスモーキー、オイリーな口当たり。柑橘やチャーオークの甘さ、ウッディネス。そしてビターなピートフレーバーがしっかりと広がる。
余韻はほろ苦くピーティーで力強い。オークフレーバーがその奥に混じり、グレープフルーツの綿やオレンジ等を思わせる果実味が隠し味となって複雑で長く続く。

やや若さに通じるところはあるが、力強いスモーキーフレーバーと柑橘系の要素、三郎丸らしさがしっかりと感じられる1本。2018年のZEMON導入前に比べて洗練された酒質に、樽感が程よく混ざりあう。樽感は華やか黄色フルーツ系より、少し焦げ目がついた新樽寄りのタイプで、それがピート由来のほろ苦い香味と馴染んでいる。
口当たりは61%あるとは思えない柔らかさ。本リリースの特徴で、専用グラスでなくとも充分美味しさと個性を楽しめる。

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なお、上記通常使っている木村硝子テイスティンググラス1でのレビューだが、The Ultimate Peat Glassを使うことでこれらの要素が混ざり、ピートのスモーキーさと樽由来の甘やかなアロマが主体でネガティブ要素も一層少なくなり、口当たりのスムーズさで美味しさが際立つ。
まさに、良いフレーバーを引き出し、力強いピートフレーバーと三郎丸の酒質がバランスよく融合した味わい。

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三郎丸蒸留所の「ピートを極める」をコンセプトに、その個性や美味しさをストレートに伝えられるように製作したオリジナルグラス「The Ultimate Peat Glass」。このグラスの特装版として発売された、アタッシュケース付きモデルに付属していたのが、今回のテイスティングアイテムです。

本テイスティンググラスの設計には自分も関わらせてもらった訳ですが、「こういうのできませんか?」と、悪ノリで提案したモノが本当に形になってしまったのが本品だったりします。
元ネタは某グラスメーカーのイベント用アイテムと思しき、同社の最上位モデルのワイングラス8種が全て入ったケース。アタッシュケースかっこいいなー、こういうのあったら良いなぁ、2脚セットとかでどうだろうと。

ほら、男性ならアタッシュケースに憧れることは1度くらいあるじゃないですか(特に思春期)。
しかし稲垣さんからは、やれますね、とサムズアップがメッセンジャーで返ってきたくらいのリアクションで、社交辞令だと思っていたらまさか本当に作るとは(笑)。
しかもこのグラス用のウイスキーとセットですよ。完成の連絡を受けて、思わず笑ってしまいました。

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※The Ultimate Peat Glass 特装版内容:専用アタッシュケース、シングルカスク三郎丸2019-2023、専用グラスクロス、ピンバッチ、The Ultimate Peat Glass。これにボトルを入れて持ち歩く日は来るのだろうか…。

そんな個人的な趣味全開のアイテムに対して、付属のウイスキーはピーティーでスモーキーな本格派。また、樽感と酒質、このグラスで楽しむのにちょうどいい塩梅です。
2019年の三郎丸は、独自開発した鋳造ポットスチルZEMON導入によって酒質がさらに向上。数値上では苦労が見られますが、三郎丸が目指すウイスキーの個性が、原酒の成長とともに間違いなく洗練されて感じられます。
一方で、今回の1本は三郎丸の2019年の原酒の中では決してあたりとか、突き抜けた品質というわけではないようにも思います。

いわば、三郎丸モルトとしては平均的なキャラクターの一つ。今後、5年、8年と熟成を経て、間違いなく完成度が高まる余力があるようにも感じられます。
なお、今回の特装版ですが最初に予定していた販売数は瞬殺。その後追加販売もあるなど、想像以上に好評でした。
自分の知人(アジア圏の方)は、これは一体どこで買えるんだ、素晴らしいアイテムだと興奮気味に語っていました。ああ、やっぱりケースって大事なんですね(笑)。

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オマケ:自分が見かけたアタッシュケース入りグラスセット。こういうの作れませんか?この一言が、まさかこんな結果になろうとは。

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